年上オメガは嘘をつく

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オレが小学生の頃はこんなに親来てたかな? 自分のことを棚に上げてそんなことを考えていると、子供たちを乗せたバスが帰って来た。そして順番に降りてくる子供たちの中に天翼を見つけて手を振る。 ほんの二日離れていただけだと言うのに、やけにたくましくなったように思うのは親バカだろうか? 「おかえり」 「ただいま」 笑顔で帰ってきた天翼を出迎えてやりながらリュックを持ってやる。本当はハグしてやりたいけどさすがにここじゃあと我慢した。 「楽しかったか?」 「うん」 相変わらず口数が少ないけど、その顔から楽しかったのが分かる。 そんな天翼と家に帰り、話を聞きながら夕食の時間になった。そこで転職の話を切り出す。 「オレさ、仕事辞めようと思うんだけど・・・」 割と唐突に言ってしまった。けれど天翼はちらりとオレに視線を向けただけで、箸を止めない。 「なんで?」 そうなるよね。 ここは本当のことを言うべきか、それとも適当に言い繕うか・・・。実は天翼が帰ってくる間に結構真剣に悩んでいた。 いくら子供とはいえ嘘はつきたくない。それに聡い子だ。オレの嘘なんてすぐに見破るだろう。だからと言って本当のことをバカ正直に話すのも、それこそ天翼はまだ10歳。内容的にショックを受けるのではないか・・・。そう思って実は結論が出ていなかったのだ。 「言えない理由?」 黙ってしまったオレを正面からじっと見る。 「・・・言えないというか、言っていいか迷ってる」 「その話重い?」 重い? 重いかな? 重い・・・よな。 「うん」 「じゃあごはん終わったら聞くよ」 冷静にそう言うと、天翼は食事を再開した。我が子ながらその落ち着いた態度に安心してしまう。 いやいや、オレが安心させられてどうする。 そう思いながらも、そんな天翼を頼もしく思ってしまう。 いつもこうやってオレの方が助けられている。それは親としてどうなんだろう?とは思うけど、これがオレなんだから仕方がない。だめな親だと落ち込むことは出来ても、それは天翼にとってひとつも特にはならないし、無理をしたところでオレの方が参ってしまう。全く悩まなかった訳では無いけど、今ではこんなオレでごめんな、と思いつつ天翼に甘えてしまっている。 そんな頼もしい天翼は夕食の後片付けが終わったのを見計らって話を向けてくれた。 「で、オレがいない間に何があったの?」 冷静にそのまま座ってる天翼の前にココアを置き、オレはコーヒーを手に座る。 「新しい課長が他社から引き抜かれて来るって言ったじゃん」 その話は前にしていた。金曜日の歓迎会も、どうせなら参加したら?と言ったのは天翼だ。 「その新しい課長って人が昔の知り合いで、出来ればあんまり会いたくない人だったんだ」 うん。これなら嘘じゃないよな? そう思ったのに、天翼はオレをじっと見て、ココアを一口飲んだ。 「なんであんまり会いたくないの?」 そこ訊く? 「・・・いろいろあって」 これも・・・嘘じゃない。 何だかいたたまれなくてコーヒーをちびちび舐めてると、天翼がまたココアを一口飲んだ。 「会社辞めたくなるほど会いたくないんだ」 その冷静な言葉に、オレはひとつ頷いた。 「オレの父親だから?」 その言葉にオレはコーヒーを吹き出した。そして盛大に噎せる。そんなオレに慌てることも無くティッシュを差し出す天翼は至って冷静で普通だ。 「な・・・なんで?」 ティッシュで口を押えながら慌てるオレとは対称的に、落ち着いてこぼれたコーヒーを拭く天翼。 「だって由貴は他人に興味無いでしょ?あんなに他人に無関心な人が、会社を辞めたくなるほど会いたくないなんて、それだけ深く関わった人ってことだろ?そんな人、オレの父親くらいしかいないじゃん」
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