年上オメガは嘘をつく

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オレは呆気に取られて目の前の息子を見る。 この子は本当に10歳の子供なのだろうか?もしかして、子供の皮を被った大人だったりして・・・? 自分の腹を痛めて生んだ子だけど、本当にオレの子か疑問に思ってしまう。 オレの子なのに優秀すぎる。 まさか病院で取り違えられた?!いや、ここまで父親そっくりなんだからそれはないか・・・。ということは見た目と同じくらい中身も父親に似たのか! なんてつらつら考えていると、天翼がテーブルをトンと指で叩いた。 「くだらないこと考えてないで、全部包み隠さず話してよ」 現実逃避してたのもバレてしまった・・・。 この子に誤魔化しはやっぱり効かないと、オレは腹を括って最初から話すことにした。本当はこんなデリケートな話をするにはまだ早いような気もするけど、うちの天翼はおそらく精神年齢と実年齢が一致していない。 それに、微かに薫る香り・・・。 この離れていた二日で、天翼は気のせいではなく成長していた。 やっぱりアルファだったか・・・。 身内なのでフェロモンは感じないけど、香りは分かる。それに少しだけど威圧も・・・。 本人はまだ無自覚みたいだけど・・・。 こんな幼いうちから威圧を発揮できるなんて、かなり強いアルファなんだろう。そして、そんな天翼からは焦りも戸惑いも感じない。冷静そのものだ。 オレの中のオメガの部分がそんな天翼(アルファ)に頼ろうとしている。今までの半分おふざけではなく、本能が天翼に従おうとしているのだ。 親の威厳ゼロだな・・・。 そう思いながらも頼もしいアルファに成長していく天翼に喜びを感じつつ、オレはことのあらましを話した。過去も含めて全部。だって、ちょっとでも話をとばそうとするとすぐにバレて睨まれるから・・・。 そうしてオレは全てを天翼に話して聞かせた。それは天翼の出生に関わることでもあるので、オレは少し心配になったけど、天翼はそのまま落ち着いて聞いていた。そして全てを話終えると、天翼は口を開いた。 「で、由貴はこのまま何もしないで会社を辞めていいの?」 その言葉にオレはちょっときょとんとする。 言葉の意味がよくわからずに何も言えずにいると、天翼がひとつ息をついた。 「とりあえず過去のことは置いとくとして、由貴はその人のこと好きなんだよね?その思いは伝えなくていいの?」 伝える? オレの思いを・・・? 「伝えないよ!何言ってんだよ。あっちは再来月結婚する婚約者がいるんだぞ。伝える訳ないだろ!」 とんでもないと声が大きくなるオレに対して、やっぱり冷静なままの天翼が言う。 「だからだろ?あっちはもうすぐ永遠の愛を誓う相手がいるんだ。今さら他のやつに告白されたところで心が揺らぐわけない。ましてや過去に酷い扱いをされた奴からだったらむしろ、ざまあみろと言ってこっ酷く振るだろ?」 確かに。 昔振られた相手を見返すためにいい男(女)になってもう一度惚れさせて振る、というのはドラマやマンガでもよくある話だ。 「あっちは長年の鬱憤が晴れてせいせいして結婚出来るし、由貴は自分の気持ちに決着をつけられるじゃん」 オレの気持ち? 「十年前の由貴もいまの由貴も、相手のことばかり考えて自分の気持ちを押し殺してるじゃん。嫌なんだよ。由貴ばっかり我慢して苦しんで・・・。ちょっとは自分にも優しくしてやれよ。こんなに好きなんだって言ってさ、気持ちを解放してやれよ。今ならあっちだって相手がいるんだ。由貴が言ったところで何も変わらない。何も変わらないんだから、言ったって大丈夫だよ」
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