年上オメガは嘘をつく

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オレの苦しみを、まるで自分の事のように感じくれる天翼。 優しい子に育ったな。 それが嬉しい。 オレのことをこんなにも思ってくれてる天翼が愛おしくて、オレは立ち上がって天翼のところに行くと後ろからぎゅっと抱きしめた。 「ありがとう、天翼。大好きだよ。オレは天翼がいてくれればそれでいいよ」 オレに抱きしめられたまま、天翼は抵抗しないでいてくれる。 「ちゃんと振られてこいよ。それでオレが、ずっと由貴の面倒見てやるから」 ぼそっと呟いた天翼からは少し照れた香りがする。 息子(つばさ)に面倒を見てもらう予定は無いけど・・・。 「じゃあいっぱい頑張って出世しないとな」 「分かってるよ」 ぶっきらぼうにそう返すけど、天翼からは温かい優しい香りがする。そう思ってると、天翼も呟く。 「由貴・・・いい匂いがする」 天翼も分かったか。 「オレの香りかな?」 「由貴の?」 「天翼もいい香りがするよ。少し離れてる間にアルファの力が現れたんだろう」 そのオレの言葉に、天翼が急に立ち上がった。 「オレ、アルファ?」 オレの方を向いてそう言うから、オレは頷いた。 あれ?背も高くなってる。 「多分な。明日ちゃんと調べてもらおう」 明日明後日は代休で学校が休みだ。それに合わせてオレも会社を休みにしている。 今から予約は無理だから、明日早めに行って受付をして・・・と思ったら、急にガバッと天翼がオレに抱きつき、首元に鼻を埋めた。 「由貴・・・いい匂い。だけどエロくない」 エロ・・・どこでそんなこと覚えてきたんだ? 「身内だからフェロモンは感じないんだよ。親子でムラムラしたら大変だろ?」 そんなことになったら世間は禁忌で埋め尽くされる。 「なんだ。オレ、由貴なら抱ける自信あったのに」 なおも耳の後ろを嗅いでいる天翼の言葉に、オレは一瞬フリーズする。だけど・・・。 オレは張り付いてる天翼の背中をバチンと叩いて引き剥がした。 「何ボケたこと言ってるんだ、この10歳児が!!」 色ボケした息子に一喝すると、オレは自分の部屋に入ってドアを閉めた。そしてドアを背に座り込む。 心臓がバクバクしている。 あの顔でそんなこと言われると冗談にならないんだよ・・・! フェロモンは感じないはずなのに、心臓がドキドキして変な汗が出てくる。 親子でなんてありえない・・・。 オレは何度も深呼吸を繰り返してどうにか自分を落ち着かせる。 分かってる。 オレは天翼に反応したわけじゃない。 天翼の声と姿が、二日前に会った時に嗅いだ彼の香りを思い出させたのだ。 十年前のままならおそらくこうはならなかったのに、再び会ってしまったことで、オレの中で彼の存在が上書きされてしまった。 記憶というのは時間とともに美化されて、不意に訪れる再会で現実との差を思い知ることが多いというのに、彼はオレの記憶の中よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 そうなることを願って別れたのだけれど・・・。 会いたくなかった・・・。 オレの中の思いが、決して色褪せることなく存在し続け、さらに再会したことによって色鮮やかに濃くなってしまったことに、オレは恐怖すら覚える。 十年も経ってるのに、オレってキモイやつだよな。それも嫌われてるやつなのに・・・。 早くこの思いを何とかしなければ、という思いが湧き上がる。
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