年上オメガは嘘をつく

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また姿を消すだけじゃだめだ。 天翼の言った通り、今度は思いを告げてこっ酷く振られよう。そうしたら、オレの中で彼への気持ちも変わるかもしれない。 そう密かに決意をし、オレはその日早めにベッドに入った。 そして次の日、訪れた病院で天翼のアルファが確定する。 アルファと分かっても本人は至って普通で、昨夜のエロ発言も全く出ない。 まあ、昨日のは冗談だったんだろうけど、もう少しアルファだったということになんか思いは無いのだろうか・・・。 オレは自分がオメガだと分かった時には、少なからずショックを受けた。これから先の人生が閉ざされたような気がしたからだ。 だけどアルファなら将来を保証されたようなものだし、オメガとのトラブルさえ気をつければ、生きづらいということもないだろう。 オレとしては天翼がアルファでひと安心だ。オレみたいにやりたいことも出来ず、ただ苦渋を飲まされることなんてないだろうから。 なんでも好きなことをすることができる。 それがどんなに素晴らしいことか・・・。 オメガやベータがダメな訳では無いけれど、それでも自分がオメガゆえにできなかった悔しさを知っているから、やっぱりアルファで良かったと思ってしまう。 それでも、オメガだからこそ得られた幸せもある。 隣を歩く天翼はオレのかけがえのない宝であり、オレの命そのものだ。それを得ることが出来たことに感謝しているのも事実で、結局、どの性がいいかなんて分からない。分からないけど、しなくていい苦労はさせたくないと思ってしまうのは、やっぱり親のエゴなのだろう。 そんなことを思いながら天翼を見ていると、不意に天翼がこちらを見た。 「なに?」 「いや、でかくなったなと思って。オレの背なんてすぐ抜かされそうだ」 四年生なのにすでに160cmある天翼はクラスでも大きい方だ。それがアルファだったからだと言われるとそれも納得。そしてこれからどんどん大きくなって、あっという間にオレの背も追い越し、見上げるくらい大きくなるんだろう。 子供の成長はあっという間だな。 もうほとんど手がかからないどころか、思いっきり頼りになってる天翼。その上アルファが確定して、ますます頼もしくなっていく。 「もっと頼っていいよ。もう由貴一人で頑張らなくていいから」 まるでオレの心を読んだかのようなその言葉に、不覚にも涙が出そうになる。 「何言ってんだよ、小学生。子供は子供らしくしとけ」 涙を隠すように言ったオレの言葉に天翼がふっと笑う。きっと、オレの心なんて見透かされてるんだろう。 そんな訳で天翼の第二性診断も無事に終え、残りの休日をのんびり過ごした。 その間に今までの家計を見直して、そして声をかけてくれている大学についても調べた。 そして意外にも、家計がそれほど逼迫(ひっぱく)していないことに気づく。 今まで会社の収入だけでやっていて、副業にしている翻訳の収入は専用の口座に振り込んでもらったまま確認もせず放置していたのだけど、それが思ったよりもかなり多かったのだ。それもこれ一本で生活できるくらいに。 これは焦ってアメリカ行きを決めなくてもいいかもしれない。 まだちゃんと調べた訳では無いけれど、天翼のことも考えると簡単には渡米は決められない。自分の研究ができるのは嬉しいけど、もう少し天翼は日本で育てたい。 これを断ってもまたどこからかオファーが来るかもしれないし、とりあえずは翻訳だけでやっていくか・・・。
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