年上オメガは嘘をつく

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本当は彼が来たからだけど、そこまで詳しく言うつもりは無い。 「本当に、結婚でもいかがわしい仕事でもないんだな?」 いかがわしい仕事って、部長、オレよりもさらに際どい仕事を想像してましたね・・・。 「違うので安心してください。普通の在宅ワークです」 そう念を押すと、オレはよろしくお願いしますと言って部屋を出ようとした。するとその背中に声がかかる。 「オレじゃあ、ダメだろうか?」 その言葉にオレは振り向く。 なにがだめ? 「オレは高梨のパートナーにはなれないだろうか?」 真剣な顔と真剣な声。それに部長から薫る香りにも真剣さが混ざる。 いつもの冗談とは違うその言葉に、オレも真剣に答える。 「すみません、窪倉さん。オレは今でも子供の父親が好きなんです。一緒にはなれなかったけど彼への思いは変わってないし、これからも彼への思いは変わりません」 オレはこの先もずっと彼を好きでい続けるだろう。たとえこっ酷く振られたとしても、他の誰かを好きになることはおそらく無い。 「すみません」 オレはもう一度頭を下げて、部長室を出た。 部長の真剣な思いに正直驚いた。今までも何度かそんなことを言われてきたけど、全部冗談だと思っていたから。 いつからオレのこと・・・。 あんなに優秀なアルファがこの年までパートナーを持たなかったことに疑問を持っていたけど、もしかしたらオレのせいだったのだろうか・・・? 自分はモテるはずがないという先入観が、部長の思いを見えなくしていた。 申し訳ないという思いが心に湧き上がる。だけど、あんなに優れた人だから、きっとすぐに良い人が見つかるだろう。 オレは気持ちを切り替えるように大きく深呼吸をし、自分のデスクに戻った。 さあ、仕事をしよう。 身体が同じフロアにいる彼を感じて落ち着かないけど、それを意地で表に出さず、オレは仕事に集中した。もう辞表を出したのだ。残りの日々をお世話になった恩返しのつもりで精一杯頑張ろう。 オレの勤務日数はあと二週間だ。通常辞めるひと月前には辞表を出すものだけど、オレの場合有給が一週間残っていることと、そのまま発情期に入るのでその休みも合わせて、後半を全て休暇にしたのだ。だからあと二週間勤務したらそのまま休暇に入り、退職となる。 その間に彼へ告白しなくては・・・。 そう思いつつ、今でもすでに全身で彼を感じてその気配を追ってしまっている。少しでも気を抜くと彼の方へ視線が行き、仕事にならない。こんな状態で告白なんてしたら、その先は完璧に仕事にならない自信がある。 本当にするなら出勤最後の日にしよう。 天翼にもせっつかれ、自分でもしようと決めたのに、いざとなると逃げたくなる。 このままフェードアウトしたい・・・。 そう思っても、日に日に似てくる天翼にいつ本気で欲情してしまうか分からないという恐怖がオレの中にある。 万が一にも息子と××なんてありえないけど、先日のように息子の存在がきっかけで彼を思い出して身体がやばい事にはなりかねない。そんなことになったら、オレは一生自分が許せないだろう。そうならないように、やっぱり彼にこっ酷く振られて、オレの中での彼の存在を書き換えなくてはいけない。 再会さえしなければこんなことにはならなかったのに・・・。 そんなことを思いながら極力彼を避け、仕事のみに没頭すること二週間。ようやく出社最後の日となった。 オレは朝一で部長室を訪れ、今までのお礼と別れの挨拶をした。告白を断ったという気まずさがあったけれど、部長はいつもと変わらず対応してくれて、これからも頑張れよ、と言ってくれた。
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