年上オメガは嘘をつく

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入社以来ずっとお世話になった人だ。そしてすごく良い人。オレにオメガだからという偏見を持たず、ちゃんとした一社員として見てくれた人だ。この人と一緒になったら幸せだろうな、と思っても、人の心はそう簡単には行かない。 部長も早くオレのことなんて忘れてくれるといいな。 そう思いながら、オレは最後の日を過ごした。 最後の日だからといって何かが変わる訳では無い。というのも、オレは自分の退職をみんなに言っていないからだ。 オメガ枠採用のオレは、あまり他の社員と親しくはない。 一般的には、ベータにも劣る能力のくせにオメガであると言うだけで特別に入社できた無能な奴、という認識があるからだ。大っぴらには言わなくても、みんなそう思っている。 みんながみんなオレを見下している訳では無いけれど、どうしても言葉の端々にどうせオメガだから・・・というニュアンスを感じ取ってしまう。そうなるとオレも心を開くこのなんてできなかった。 それでも12年も世話になったんだから、最後まできちんとしよう。 オレは自分がいなくなってから迷惑がかからないように、自分のやっていた仕事を最後まできっちりこなした。 あとは・・・あれだな・・・。 会社の仕事は全て終わらせた。あとは一番気乗りしない大仕事・・・彼への告白だ。 すると決めたからには、ちゃんとする。 オレは深呼吸を一つすると、帰り支度をする彼の元へ行った。 今まで散々避けまくっていた人だ。向こうもオレの香りに気づいて驚いたようにこっちを見た。 「少し話があるんだけどいいかな?すぐ終わるから」 ここで断られたら何も出来ないな、と思っていたけど、彼は承諾してくれた。顔は強ばっていたけど・・・。 オレはそんな彼と連れ立って会社を出ると、駅近くの公園に来た。 どこで言おうか迷ったけど、どこか店に入ってしまうと周りが気になってしまうし、きっとそれほど時間はかからないだろう。そう思ってオレは人気のない公園にしたのだ。 公園の中の道はある程度人がいるものの、少し入った奥には誰もいなかった。そのベンチのひとつに腰を下ろし、途中で買ったコーヒーを彼に渡した。 「ごめんな、急に呼び出して」 本当は上司に対してタメ口はダメだろうと思ったけど、これからすることは会社に関係ないし、そもそもオレは退職する身だ。ここは昔のように話してもいいだろう。 「せっかく心機一転で転勤してきたのにオレがいて申し訳ないと思ってるよ。オレの顔なんて見たくなかったろ?」 彼からの返事はない。 ちらりと横を見ると、彼はオレの渡したコーヒーを握りしめてそれを見ている。 ま、当然か・・・。 オレはち立ち上がって俯いてる彼の前に立った。そして、思い切って口を開く。 「申し訳ないついでに、ひとつ言いたいことがあるんだ。俊樹(としき)・・・オレ、お前のことが好きだよ。また俊樹に会うなんて思ってなかったから驚いたけど、俊樹、頑張ったんだな。オレが思うよりもずっとすごい(アルファ)になって、ちゃんといいパートナーも見つけて、オレ、凄く嬉しい。あの時も今も、オレは本当に俊樹の幸せを願ってるんだ。だから幸せになった俊樹に会えて本当に嬉しいよ。これからももっと幸せになれよ。ずっと応援してるからさ」 オレはそこまで言うと、いったん言葉を切って。息を吐いた。 言えた。 なんだか心のつっかえが取れたようにすっきりした。目の前の彼は下を見たまま何の反応もない。 うん。 分かってるよ。 オレは彼からの答えを求めてる訳じゃない。だから、なんのリアクションもないことに不満もない。 これで本当にお終いだ。
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