年上オメガは嘘をつく

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その事実に心臓がバクバクと鳴る。 「噛ました」 オレの動揺が伝わったのか、うなじに顔を埋めながら彼が言う。そして、オレの腹に手を当てる。 「そして、僕の種を植え付けました。僕はあなたを孕ませたい。いや、孕ませます。そしてその子を生ませます」 心臓が壊れたように脈打つ。 「結婚・・・するんだろ?そういうのはその相手と・・・」 「やめました」 オレの言葉を遮るように、彼が強く言う。 「結婚はやめました。彼女とは別れたんです」 その言葉に、今度は心臓がぎゅっとなった。 別れた? まさかオレが告白なんてしたから? 「あなたのせいじゃありません。最初から僕は彼女を愛していなかったんです」 意味が分からず、けれど彼の言葉に身体が震え出す。 「あなたはいつも一方的に言って、僕の意見も聞かずに姿を消してしまう。十年前もそうです。あなたは僕に酷いことを言うだけ言って、そのままどこかに消えてしまった。どんなにあなたを探しても、あなたは見つからない。思えば僕はあなたの事を何も知らなかった。恨みましたよ。憎みました。僕はあなたがスペックの高いアルファを見つけるまでのただの繋ぎだった。だから後腐れがないように、何も教えてもらえなかったんだと・・・」 当時の思いがオレに流れ込んでくる。 重く、そして苦しい。 「あなたを見返してやりたくて僕は努力しました。僕を捨てて選んだ相手のアルファよりももっと上のアルファになって見返してやる。僕を捨てたことを後悔させてやる、と。そして同時に、あなたよりももっといい人をパートナーにしようとも思いました」 心臓がズキリとした。 そう望んだことだけど、改めて本人の口から聞くと辛い。 「アルファとしてのスペックを上げつつ、僕はパートナーになるオメガを探しました。どの子も可愛く魅力的で、僕を本気で好きになってくれた。でも、ダメだったんです。付き合い始めていざベッドへ・・・そうなると、身体が拒否するんです。いくら魅力的な人でも、身体が香りを感じ取って、この人は違う、と拒否するんです。おかしいでしょ?アルファはオメガのフェロモンに逆らえないはずなのに、発情期ですら身体が拒否するんです。ならばと、今度はベータの子と付き合うことにしたんです。ベータは香りがないので、僕の身体も誤魔化されました。そして、何人かと出会いと別れを繰り返した後、彼女と出会ったんです」 オメガを受け付けなかったということに驚きながら、それでもベータの子を見つけたということに喜べない自分がいる。 「彼女は素直で純粋で、何より無垢でした。僕だけを見て僕だけを思ってくれた。そんな彼女を愛おしく思い、パートナーになってもらいたいと思いました。三年かけて愛を育み、ようやくプロポーズをした時、引き抜きの話が来たんです。これから結婚する彼女をもっと幸せにしたい。それに、アルファとしてさらに高みに挑戦したい気もありました。だから受けたんです。結婚式を控えた慌ただしい時期でしたが、それでも魅力的な条件に移った会社に、あなたがいた」 戸惑いと苦悩が伝わってくる。オレだって、彼を見た時には驚いた。何故いまになってここに現れたのか、と。 「あなたの香りを嗅いだ途端、心が十年前に一気に引き戻されました。それまで彼女と築き上げてきたはずの幸せは一瞬で色褪せ、僕の心はあなた一色に染りました。それは決して綺麗なものでは無い。ドロドロと凝り淀んだものです。あなたへの憎しみと怒りが一気に僕の心を支配しました」 憎しみと怒り・・・その言葉はオレの胸を締め付ける。でもそれはオレがそうしたこと。傷付くのはおかしい話だ。
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