年上オメガは嘘をつく

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「僕のことに気づいていないはずがないのに、何事も無かったかのように仕事をするあなたにイラつきました。そして歓迎会でも、あなたは何人ものアルファに狙われているというのに涼しい顔をして躱し、それに気づいた部長が他のアルファを牽制しに来ると、他では見せなかった笑顔を見せて・・・。そしてその口で言うんです。この世で一番好きな人の子がいる、と。訳あって結婚できなかったけど、その人の子を育ててるから幸せだと、あなたは本当に幸せそうな顔で言うんです。そしてその、この世で一番好きな人で、でも訳あって結婚できなかった人は部長だと思いました」 あの時、話しかけてくれた社員がオレを狙っていたということに驚いていたオレは、さらに部長の名に驚く。 部長がオレの好きな人? 「だから他の社員に牽制をかけ、僕のこともわざわざ呼び止めて釘を差したのだと思いました。『彼はオレのものだから手を出すな。お前には結婚する相手がいるだろう』と」 牽制? あの時、彼を呼び止めて和やかに話していたと思っていたけど、あれは部長が彼に牽制をかけていた? 「十年前に言っていた超ハイスペックなアルファは部長のことで、でも訳あって結婚できなかったけど彼の子を生み、そばにいるのだと思いました。そう思ったらあなたのことが頭から離れなくなって、週末をあなたのことだけを考えて過ごしました。なのに次に出社した時にはあなたはいなくて、三日後、ようやく出社したと思ったらあなたは朝イチで部長室に入っていった。なにをしに入っていったのか、オレは頭がおかしくなりそうになりました」 確かにハイスペックなアルファと結婚する話を彼に匂わせたけど、あれは別れるための嘘だった。だけど、そういわれれば辻褄が合う。 「部長に嫉妬しました。僕からあなたを奪い、且つ子供を生ませ、さらにこの世で一番好きな人だとあなたに言わせる。どんな訳があるかは知りませんが、そんなにも思われているというのに未だに番にもせず、結婚もしない。なのにあなたをつなぎ止めている彼が憎かった。そんな時です。彼女に話があると言われたのは・・・」 部長への燃えるような嫉妬が痛いくらいに伝わってくる。番になったせいか、彼の心がダイレクトにオレへと流れ込んでくる。 「会うのは二週間ぶりでした。転職するまでは毎日メッセージのやり取りをして、毎週末を一緒に過ごしていたというのに、僕はあなたに会った時から彼女のことを忘れていたんです。正直、会いたいと電話が来て初めて、彼女の存在を思い出しました。そして未読のまま溜まったメッセージに気づきました。何十通ものメッセージ。そこには徐々に不安になる彼女の気持ちが書かれていました。なのに僕はそのメッセージにすら気づかず、あなたのことだけを考えていたんです」 後悔と罪悪感。そして、苦しみ。 胸が痛い。 「僕の中に言いようのない罪悪感が生まれました。二週間ぶりに会う彼女は目に涙をため、震えていました。そして言うんです。抱いて欲しいと。慎ましい彼女が決して口にしない言葉です。なのにそんなことを言わせてしまうほど彼女を追い詰めてしまったというのに、僕は彼女を抱いてあげられなかった。再び知ったあなたの香りが、僕の身体を支配してしまった。もう誤魔化されなくなってしまったんです」 再会はするべきじゃなかった。 運命の神様はなんて意地悪なんだろう。
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