年上オメガは嘘をつく

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「動かない僕に、全てを悟ったんでしょう。彼女が言うんです。結婚をやめましょう、と。自分を愛してくれない人と結婚はできない。そう言って僕の前から去りました。愛していると思ったんです。この人となら、幸せになれると。だけど、再びあなたと会って、僕は自分の本当の気持ちに気づいてしまった。僕はずっとあなたを愛していた。憎しみも恨みも、あなたを愛するからこそ生まれた感情。だから部長に激しく嫉妬し、あなたのことが頭から離れなかった」 彼の腕に力がこもる。 密着した肌が熱い。 「なのにあなたはまた僕の前から姿を消そうとする。あなたが再び会社に来なくなって、誰かが部長に訊いたんです。すると部長は『高梨は退職した』と言いました。その理由が、『もっといい条件のところに転職する』からでした。その時思ったんです。ハイスペックなアルファの所へ永久就職する、というあなたの言葉を。訳あって出来なかったそれが、出来るようになったんだと思いました。だから、あなたは部長と結婚するために会社を辞めたのだと・・・」 確かに辻褄があってしまう話ではあるけど、どうしてそうなったのか。 それにオレは・・・。 「オレ、俊樹に告白したよな?お前が好きだって」 出勤最後の日、オレは意を決して告白したはずだ。 「あれはまた、僕の前から姿を消すためについた嘘だと思ったんです。あなたは僕の前から消える時、いつも嘘をつくから」 いつも・・・て、十年前に一度だけだけど・・・。でも、オレの決死の告白を嘘だと思われていたとは・・・。 あんなに頑張ったのに、ちょっと残念だな。 「それでオレが部長と結婚するとして、俊樹はどうしようとしたんだ?」 オレの頑張りは置いといて、俊樹は何がしたかったんだろう? 「もちろん、あなたを奪おうとしたんです。たとえ部長と結婚したとしても、あなたのうなじがまだキレイなのは知っていました。なので、部長よりも早くあなたのうなじを噛んで、あなたを僕のものにしようと思ったんです」 真剣にそう言うと、彼はまたオレのうなじに唇を寄せた。 「どうしてオレが発情期だって分かったんだよ。それに、インターフォン。なんでドアのインターフォン押したんだ?エントランスはどうやって通ってきたんだよ」 そう、ここはオートロック式のマンションだ。上に上がってくるにはまず、エントランスを開けなくてはならない。 「あなたの発情期周期は知っていたので、前回の発情期休暇から割り出しました。あと、エントランスですが、どうやって入ろうかと悩んでいたら、ちょうど中から出てきた親子連れの方が開けてくれたんです」 「親子連れ?」 「ええ。アルファの女性の方と息子さんです。『カギを忘れたんですか?どうぞ』て」 息子を連れたアルファの女性・・・。 「その息子の顔は見たか?」 「いいえ。息子さんは横を向いてらして見てません」 わざと横を向いてたんだろうな・・・。 彼の言う親子連れはおそらく姉と天翼だ。きっとエントランスのガラス越しに彼が見えて、状況を理解したんだろう。姉はともかく天翼は事情を知っている。それに姉もかなり頭の回る方だ。天翼そっくりの男がいたら、そりゃ天翼の父親だって分かるだろう。二人が結託したのかアドリブだったかは分からないけど、きっと分かった上で彼を中に入れたのだ。 おまけにメッセージも送ってきたし・・・。 あれがなきゃ確認もせずにすぐドアなんて開けなかった。あのメッセージは彼をオレに会わせるために送られてきたんだ。 忘れ物なんて取りに来なかったしっ。 オレが姉たちの行動に心の中で唸っていると、またぎゅっと腕に力が籠る。
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