年上オメガは嘘をつく

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「僕のしたことに怒るのは分かります。だけど、あなたは僕のものです。たとえ嫌だと言われても、部長が取り戻しに来ても、もうあなたを離しません。今の僕にはその力がある。もう非力な学生じゃありません。部長にだって絶対に負けません」 オレが姉に思った感情を、自分に向けたものと勘違いしたのか、彼はぎゅうぎゅうとオレを抱きしめ、独占力を剥き出しにした。その全てを縛られる感覚が嬉しい。彼の腕の中でオレは幸せに包まれる。 そしてふと気がついた。 オレ、俊樹から逃げる理由なくない? そもそも、オレは好きな彼に嫌われていて、その彼が他の誰かと結婚するを見たくなくて、さらに彼の幸せの邪魔をしたくないから彼の前から姿を消そうと思ったんだ。 だけど彼の話を聞くと、彼はオレが好きで、結婚はやめて、オレをそばに置きたがっている。 「あのさ、俊樹の幸せってなに?」 突然脈絡のない質問をするオレに、少し間を置いて彼が答える。 「僕の腕の中にあなたがいることです。あなたのいない人生に僕の幸せはありません」 その言葉にオレは身体の向きを変えて彼に向き合うと、オレからも彼に抱きついた。 オレの願いは彼が最高のアルファになることと、彼が幸せになること。 十年前はまだ彼も未熟で、そしてオレは離れすぎた年に、自分は彼にはふさわしくないと思っていた。 だけど、彼はもう最高のアルファになり、年も気にならないくらいお互い大人になった。そして何より、彼の幸せは・・・。 「部長はここには来ないよ。結婚の予定もない。どうしてそう思ったのか分からないけど、オレと部長はただの上司と部下だ」 そう言って顔を上げると、オレは彼の目を見た。 「オレが好きなのは俊樹だよ」 伝わるだろ?もう番なんだから。嘘じゃない。オレの本当の気持ち。すると彼はオレを力いっぱい抱き返した。 「あなたが好きです。どうしようもないくらい。たとえあなたの一番になれなくても、僕はあなただけを愛してます」 オレも俊樹だけだよ・・・と思って引っかかった。 「一番?」 「あなたのお子さんの父親が羨ましいです。それが部長だと思ってましたが、別にいるんですね。正直嫉妬してます。でもあなたが僕を好きだと言ってくれたから、これからその人を抜いて一番になれるよう努力します」 オレはちょっとぽかんとしてしまった。子供の父親って・・・。確かにこの世で一番好きな人の子だとは言ったけど・・・。 まあ、あの時子供が出来たなんて言わなかったから知らなくても仕方がないけど・・・あれ?じゃあもしかして・・・。 「オレに種付けしたのって・・・」 「あなたの一番好きな人に嫉妬したんです。僕の子も生んでください。そして言ってください。好きな人の子だって。僕はそれが『一番好きな人の子』に変わるように努力します」 その言葉と共に嫉妬心が彼から放たれる。 その相手が誰だか知ったら、俊樹はどうするんだろう・・・。 どうしようかと思案するも、どうせすぐ分かる事だから、とオレはベッドサイドに置いてあったスマホを手に取ると、写真フォルダから天翼の写真を出した。そしてそれを彼に見せる。すると、写真を凝視した彼は信じられないようにオレを見る。 「オレが今まで好きになったのは一人だけだし、オレがベッドを共にしたのも一人だけだよ」 その言葉に目を見開き、もう一度スマホの写真を見る。 「僕の・・・子ですか?」 「天翼、10歳だ」 「なんで・・・なんで言ってくれなかったんですか?!」 顔を強ばらせてそう言う彼に、オレは逆に訊いた。
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