年上オメガは嘘をつく

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なぜなら二人は、他人が見ても到底無関係には思えないくらい、そっくりだったからだ。 あんなに似てたら、たとえ本人同士が会わなくても片方を知ってる人間なら父親だとバレてしまう。そうなる前に、さっさとここから離れないと・・・。 そんなことを思いながらその日の仕事を終え、彼の歓迎会となった。 個室貸切で行われたその会は、初めにみんなの自己紹介をしたあとは無礼講になり、みんな思い思いの席に移って楽しんでいる。こんな飲みの席に滅多に参加しないオレのところにも社員が何人か来てくれて話をしたものの、それも落ち着いてオレは一人部屋の隅で烏龍茶を舐めている。 もともと酒は好まなかったところに天翼を生んで、全く飲まなくなった。今日もこの会が終わったらそのまま帰るつもりだ。酒も飲まないのに二次会なんて出るつもりもないし、彼との接触は避けたい。そう思って時計を見ていると、今回部長に昇進した上司が来た。 「高梨、飲んでないのか?」 ほろ酔いの上司はオレの二年先輩のアルファだ。オレの入社当時の教育係だった。 「オレが酒飲まないの知ってるでしょ?部長は楽しそうですね」 そう言いながらテーブルにあったビールを注ごうとしたら、部長はそれを取り上げて自分で注いだ。 「無礼講だ。オレのことは気にするな。言葉もな」 そう言われても部長になっちゃったしな・・・と思いつつしばらく話していると、急に部長・・・窪倉さんがそばを通りかかった彼を呼び止めてしまった。そのいきなりの行動に、オレは飲んでいた烏龍茶を喉に詰まらせる。 「大丈夫か?」 ゴホゴホと咳き込むオレにおしぼりが差し出され、思わず受けとってしまったけれど、それを差し出したのは彼だった。 「・・・ありがとう」 受け取ったおしぼりで口元を拭い、そっと彼を見る。今日一日、視線を合わさないようにしていたのは彼も同じだった。なのに今、彼はオレを見ている。 「大沢、こっちは高梨だ。この部署で一番仕事ができるから、ここぞと言う時は頼った方がいい」 上機嫌に紹介してくれるけれど・・・。 「さっき自己紹介しましたよ」 「でも一番優秀だとは言ってないだろ?」 そんなこと自分からは言わないし、思ってもない。 「オレなんかより、大沢さんの方が優秀ですよ。この年で引き抜かれて課長なんて」 「そうなんだよ。大沢はすごく優秀なアルファなんだ。優秀な奴は仕事も出来て早い。それに周りが放っておかないから結婚も早い」 その言葉に心臓がチクリと痛む。けれどそんなこと表には出さない。 「もう結婚してるんだ」 笑顔でそう言うと、彼・・・大沢くんは眉間に皺を寄せた。 「いえ・・・結婚はまだです」 少し歯切れの悪いその言葉を窪倉さんが続ける。 「婚約してるんだよ。挙式は再来月だっけ?」 「はい」 「いいね。きっと可愛い人なんだろうね。仕事もプライベートも順調で羨ましい。窪倉さんもそろそろ相手を見つけないと、こんな優秀なアルファが来たら抜かされちゃいますよ?」 窪倉さんはまだ番も結婚もしていない。 「だな。どうだ高梨、この際オレと結婚するか?」 酒の席の酔っぱらいの戯言。オレは軽く受け流す。 「こんな子持ちの年増オメガなんてからかってないで、窪倉さんなら選り取りみどりでしょ?いい人探してくださいよ」 その言葉にふっと笑うと、窪倉さんは誰かに呼ばれて行ってしまった。 二人で残されても困るんだけど・・・。
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