年上オメガは嘘をつく

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大沢くんも早くどこかへ行ってくれないかなと思いながら烏龍茶を舐めてると、急に彼がビールを一気に飲み干した。そして空になったコップをテーブルに置くとオレを見る。 「ゆ・・・高梨さんは結婚してないんですか?」 少し目が座ってる。酔ってるのかな?あの頃はまだ彼が未成年で酒は飲まなかったけど、もしかして弱い・・・? 「・・・うん」 「超ハイスペックなアルファの所に永久就職したんじゃないんですか?」 その言葉に、そんなことを言って別れたのを思い出す。 「ああ・・・実は訳あって内定取り消しになっちゃって・・・」 「そうなんですか?それは残念でしたね」 どきりとした。彼の目がさっきよりも鋭くなったから。その目が何かを探ろうとしているようで、落ち着かない。 「年も、僕が知ってる年じゃないですね」 バレた・・・。 誰かに聞いたのか? 「でも誰に聞いても何才か分かりませんでした。それでも僕より四才は年上なのは分かりました」 この部署にオメガ枠はオレだけだ。誰もオメガのことなんて気にもかけないし興味もないのだろう。オレの本当の年を知ってるやつはきっと居ない。窪倉さんですら、オレを大卒だと思って二個下だと思っている。本当は院卒なので二個上なんだけど、特に訂正もしなかった。 「あの頃、あなたはもう社会人だったんですね。年下の馬鹿な学生をからかって楽しかったですか?」 そう言いながら、ほんの少し傷ついた目をする大沢くんに、オレは少し罪悪感を抱く。 「からかってた訳じゃないよ。ただ言い出せなかっただけだ」 「でもあんなに簡単に僕を捨て・・・離れていったじゃないですか」 そう言うとビールを手酌してまた一気に煽った。 簡単ではなかった。だけど、あの時はあれが一番いいと思ったんだ。 「大沢くんには幸せになってもらいたかったんだよ」 誰よりも幸せになってもらいたかった。そしてそれは、その時のオレにはできなかった。 「もう会うつもりはなかったけど、こうして仕事もプライベートも充実させた姿を見れてオレも嬉しいよ」 本心での言葉だったけど、大沢くんはさらに傷ついた顔をする。でもそれは一瞬で、すぐにきっとオレを睨んだ。 「ある意味、あなたには感謝しています。あの時あなたにああ言われて居なくなられたから、オレはここまで頑張って来れたんです」 そう言いながら三杯目を注ごうとするから、それをオレはやんわりと止めた。 「うん。すごいいい男になったな。婚約者が羨ましいよ」 きっとすごく頑張ったんだな。良かった。やっぱりオレの選択は間違いじゃなかった。 「あなたは・・・子供がいるって聞きました」 止められた手をそのままに、大沢くんはオレと目を合わせずに言う。 「いるよ。小学生の息子が一人。だけどごめん。大好きな人の子供なんだ。この世で一番好きな人の子だから、番も結婚もしてないけど、今オレはすごく幸せなんだ。不幸のどん底にいなくてごめんな」 「え?」 オレの言葉に視線を向ける大沢くんに、オレは笑った。 「オレのこと、大嫌いだろ?憎んでるかな?そんな奴にはやっぱり痛い目を見て不幸のどん底に落ちていて欲しいよな?だけどオレ今幸せでさ、大沢くんの期待を裏切っちゃったから」 その言葉に一瞬目を大きく開いて、けれど次の瞬間頭を大きく横に振った。 「そんなこと・・・」 「いいよ、無理しなくても。それくらい酷いことした自覚くらいはあるからさ。だからもう少し待ってて。大沢くんが結婚するまでには姿を消すから。なるべく早く準備するからさ。少しの間我慢してて」 驚いたようにオレを見る大沢くんは何かを言おうとしたけれど、オレはそれに被せるように言った。
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