修学旅行

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

修学旅行

 小学生の頃、はじめて修学旅行に行ったときのことだ。  その頃、ぼくの通っていた小学校はとても人数が少なく、旅行に行くにしても、京都や大阪などの定番のところには行かなかった。  ぼくの教わっていた先生は変わった人で、「なにもないところでも、なにかあるものだ」とのことで、とある四国地方のある島へ行った。  そこには、ただ広がる海と、ひとけのない土地だけがあった。  ぼくたちは一様に気を落としながら、三日間お世話になる宿へと向かう。  ふと、ぼくは宿のひとに尋ねた。 「ここの名物や見どころって、なにかあるんですか?」  今思うととても失礼だったと思ってしまうが、そのひとはやさしいひとで、こう答えてくれた。 「あなたの感じ方次第じゃないでしょうか? たぶん、なにもないと思えば、なにも見つからないと思います――わたしはこの島から見える夕陽と、穏やかな海が名物であり、見どころだと思いますね」 ***  ぼくはそんなことを思い出しながら、今日の午後の蒸し暑い空を仰いだ。  あの日はもっと濃い青空だったのを、今でも思い出せる。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!