1 無限ループ

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1 無限ループ

「のど乾いた…。」 自分の部屋から出て、階段を下り、キッチンへ向かった。 冷蔵庫を開けたが、ビールと牛乳以外の飲み物はない。 「コンビニ行くか…。」 二階の部屋に一度戻り、上着を着ながら、スマホと財布を持って家を出る。  夏も終わり、秋が近づいてきて、夜にもなると風が冷たい。 引きこもるようになってからは、深夜にコンビニへ行くのが習慣になっていた。  この時間に入っているバイトも、すっかり顔なじみになっていた。 だからといって、挨拶をするわけでも、話しをするわけでもない。 「何にするか…スッキリ系かな。」 ブツブツいいながら、冷蔵庫の大きなガラスの扉を引き、炭酸飲料を出した。  レジに向かいながら、棚にあるお菓子を、目で物色した。 昨日と変わらない、何なら数週間、お菓子の棚の陳列は変わっていない。  どこに何があるか、バイト並みに記憶済み。 通路を数回往復して、スナック菓子を持ち、やっとレジへ向かった。  私は高校一年。 制服も可愛く、自宅からも比較的近い、第一希望の高校へ入学した。 クラスメイトの顔と名前が、やっと一致するようになり、部活にも慣れて来た頃に、登校拒否。そして、引きこもりとなった。  理由は、珍しくもないが〝いじめ〟である。  たぶん、大きなトラブルがあったわけではなかった…気がする。 だが、小さな行きちがいから〝ターゲット〟になった。  それ以来、友達が信じられなくなって、対人恐怖症になった。 そうなると、家から出ることも出来なくなり、その流れが加速して、自分の部屋で引きこもった。  最初の一ヶ月は、友達だと思っていた子達へ、不満や怒りを吐いていた。 いつの間にか、その子達のことも、言われた言葉も、されたことも、そこにいた 時間も、どーでも良くなった。  何だか、独りで過ごす時間が楽しくなった。 好きなときに起きて、寝たいときに寝て、何でも自由に出来た。  そうなったら、朝も昼も夜も関係がなくなり、決まった時間に、何かをしなければならないという事もなくなった。  私は、時間の概念に囚われなくなり、部屋の時計を見ることすらなくなり、仮に止まっていても、気にならなかっただろう。  ただ毎日、自由に楽しく過ごした。  三ヶ月が過ぎた頃から、〝このままでいいのかなぁ〟とか〝ずっと家族に甘えてていいのかなぁ〟みたいな、不安と疑問が出てきた。  今までの自由で楽しく過ごしていた毎日は、一変した。  頭の中を、不安と疑問がグルグル回り〝何かしなきゃ…〟〝でも何すればいいの?〟と、無限ループにハマっていった。
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