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10 派手なピンク
歩きながら、自分には〝不釣り合い〟なテディベアをまじまじと見た。
それは左右の目の色が違っていた。左目が赤で、右目が青だった。そして耳には青いイヤリングをしていた。
左足の裏は、色が褪せてしまっている上に、所々、糸が切れていて分からないが、何か刺繡がされていたようだ。右足は Smile と刺繍がされているのが読めた。
このテディベアの名前かな…と、ぼんやり思った。
さっきロッカーから、このテディベアを取り出したときに、驚いた。
単にぬいぐるみ感覚で持ったので、正直〝重い〟という印象だった。
少し古びたテディベアとはいえ、GパンにTシャツ、スニーカーにリュックの私が抱えて歩くには、やはり〝不釣り合いなアイテム〟だった。
こういうアイテムを好んで持ち歩くのは、小さな子供か、コスプレの人というイメージがあった。
今日は出来るだけ目立たないようにと、選んだにもかかわらず、このテディベアを抱える事で、逆に〝目立った違和感〟というか不釣り合いな感じになった。
途中、リュックに入れてしまおうかとも思ったが、イヤリングや色の違う瞳が取れてしまっては…と考え、抱えて歩くことにした。
このテディベアの重さって、綿ではなく、何かが入っているってことだよね…。抱きしめたり、触った感じからは、固い異物感はなかった。ってことは…警察24時とかでみる白い粉とか?
待って、色の違う瞳や、青いイヤリングの方かも知れない…。
想像力を捨てるって決めたのに、どんどん膨らんじゃうよ…。
段々と重機や鉄のこすれるような音が聞こえてきた。
大きな音の響く工事現場を曲がると、お弁当屋さんの看板が見えてきた。
その脇を通り過ぎると、様々なお惣菜の美味しそうな匂いが漂っていた。
チラッと横目に見ると、唐揚げやひじきの煮物、コロッケや焼き鮭といった定番メニューが、大きなパネルになっていた。
「…おなかすいたなぁ。」
ふと時計を見ると、11時40分だった。
そこを左に曲がると派手なピンクのコインロッカーがあった。
「派手過ぎでしょ…分かりやすくて助かったけどね。」
独り言を言いながら、ロッカーの前に立った…。
「え?カギないじゃん…。やっちゃった⁈…え?待って。さっきのところまで戻るとか…。」
でも、ロッカーの中にはテディベア以外は何も入っていなかった。
…こういう時は 報・連・相 ですよね。
スマホを出して、すぐに連絡をした。
「すみません。派手なロッカーには着いたんですが、カギがなくて…。さっきの場所に戻って確認してきた方が良いですか?」
「ん~鍵は、その派手なロッカーの真ん中の一番下のへこんだロッカーの上面に貼りつけてあるから、探してみてぇ。また分からない事があったら、いつでも連絡してねぇ。」
という指示だった。
ロッカーは縦に5列あって、その真ん中の列の一番下は、誰かに蹴られたのか、ドアがへこんでいた。
軋むドアを力でこじ開けて、手を突っ込んだ。
確かに布っぽいガムテープで、しっかりと貼りつけてあったカギを引き剥がした。
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