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15 再び新宿駅北口
「どうしよう…大丈夫かな…?」
今までと同じように、音も匂いもしないただの箱だと思って扱ったのが、間違いだった。もし破損するようなものだったら、どうしよう…。
乱暴にしたつもりはないが、出す時に荷物を斜めにしてしまった。
しばらく、そっと水平を保つように持って立ちつくしていたが、中の確認が出来ないので、とにかく気を付けて持ち運ぶことにした。
水色のビニール袋の中にカギを入れ、ロッカーを施錠した。
そして、薄くて大きめな箱を水平になるように腕に乗せ、カギを握り、次の場所へ向かった。
私は歩きながら、今まで運んだ荷物の事を思った。
中が気になり、ついつい軽く振って見たり、匂いを嗅いでみたりしたが、壊れるようなものはなかったのだろうか…。
もし壊れていたりしたら…弁償とか⁈…かも。
あっ!もしかして、そっちの方が目的だったりして。…どうしよう。
あのテディベアの手や足、胴体も…何も考えず、ぷにぷにと押してしまった。
単なるテディベアにしては、重かったし…。もし中に〝白い粉系〟が入っていて、ぷにぷにしたことで袋とか包んでいたものが破けていたりしたら…。
どうしよう。終わったかも…。
何か怪し過ぎるバイトの着地点が見えた気がする。
破損とかがあって、法外な請求額を突き付けられて弁償しろと脅されても、袋が破けて、白い粉が紛失した分の請求額を、臓器売買してでも返済しろと言われても、無理過ぎる…。
待って…今運んでる箱を、水平に保とうとしている腕が震えてきた。
次の目的地は、新宿北口のコインロッカー。スタート地点だ。
指示は、荷物の箱とライブハウス近くのコインロッカーのカギを、最初の北口コインロッカーにいれ、再び、施錠する。
その北口のコインロッカーのカギを、喫茶店のマスターに預けるというものだ。
やっと、怪し過ぎるバイトが終わりそうだ…。だが、どうなるのだろう。
喫茶店に着いたら、厳つい男の人がいて、その場で何かにサインさせられるかも…。そのまま連行されて、臓器を摘出されるかも…。
取りあえず、リュックに入れてあった北口のコインロッカーのカギを出して解錠し、箱とカギを北口のコインロッカーに入れ、再び施錠した。
引きこもりの運動不足と、さらに憶測の脅しに勝手に疲弊して、足取りは酷く重かった。
喫茶店に着くと、16時少し過ぎだった。
私がカギを預けて帰ろうとしたら、マスターがケーキ付きの紅茶セットを出してくれた。正直、歩き疲れた体に糖分と水分は、とても嬉しかった。
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