17 最後の整理

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17 最後の整理

 引きこもりの女子高生が消えたところで、家族以外に本気で心配してくれる人が、何人いるんだろうか?  〝拉致〟そして〝消される〟なんか行き着くところにっていうか、最終目的地が見えた気がする。  そっか……。土曜日までに、整理出来る物を片付けておこう。これ以上…いや最後まで兄に面倒はかけられない。  それから数日は、身の周りの整理をして過ごした。 〝最後の整理〟と腹をくくると、結構要らない物が出てくる。  教科書やノート、本や雑誌をまとめて縛った。友達から貰ったお土産やプレゼントは、処分しやすいように分別して箱に入れた。  卒アルや制服、家族写真や幼馴染みとの写真とかは、一か所に整理した。 兄や父には、お願いしにくいもの…服や下着は、あらかじめ燃えるゴミの袋に入れて、中を見なくても捨てられるようにして、クローゼットに入れて置いた。  思いつく限りの〝最後の整理〟を終え、家族に手紙を残す事にした。  今まで感謝の言葉を、きちんと伝えて来なかったので、口では言いづらい事も、面と向かってではないので、冷静に言葉…いや文字にする事が出来た。  今までで一番、真剣に自分と向き合い、家族の事を考えた一週間だった。 簡単に〝充実した時間〟なんていう言葉では言い表せないほど、濃縮された時間を過ごした。  「死ぬ気でやれば…。」 なんてフレーズを、どこかで聞いた事があるが、全くその通りだ。  覚悟さえ決めてしまえば、何とかなるもんだ!と今は思う。 何も残らなくても、残せなくても。大切なものを〝大切だ〟と言えて、大切に出来れば、それで十分。  そんな事を思いながら、家族宛ての手紙を机の引き出しにしまった。  ついに、土曜日が来た。新宿北口に8時。時間通りに連絡した。 呼び出し音が、いつもより大きく聞こえる。  周囲には大勢の人がいるのに、なぜか静かに思えた。 ただ、行き交う人の視線がやたらと気になった。  最初の指示は、前回と一緒でマスターのところへ行く事だった。 そこで2つのカギと小銭を受け取った。2つのカギのうち、1つは北口のコインロッカーのカギだった。 「…まさか…ね。」 と思ったが、その勘は当たっていた。  前回のように、ライブハウス近くのコインロッカーまで来て、指示を仰いだ。通話を切った私は 「やっぱり。」 そう呟いた。  最初の勘通り、前回の逆順を行くようだ。っていうか…それって元の場所に荷物を戻すって事?…待って、じゃ~先週の私は何?…えっ?筋肉痛で足パンパンだった、数日間は何だったの? 「意味ないじゃん。何なの…。」 とカギを開けた。
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