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19 菓子折りサイズ
坂を上りながら、単純な私は〝可愛い紙袋〟を持っているだけで、ちょっとテンションが上がっている。決して自分へのプレゼントではないのだが、可愛いアイテムってだけで上がる。
お地蔵さんのところを右へ曲がり、大通りの花屋さんの前まで来ると、小さな鉢植えや、奥には色鮮やかな切り花が並んでいた。
店員さんがテーブルの上で、オアシスを入れたバスケットにアレンジしていた。
「確か、次の信号を渡って、細い路地に入って…この辺だったような…気がするんだけど…。」
相変わらず、独り言をいいながら歩くと、見覚えのあるロッカーが見えて来た。
ロッカーの前に来て、紙袋からカギを出し開けた。
中にはブラウンの光沢のある紙袋が入っていた。さほど大きくはないが、少し重く、ガタガタと音がした。
紙袋を覗くと、ラッピングされた箱が入っていた。
そして今まで同様、紙袋の中にカギが入っていた。
壊れるようなものではないだろうが、慎重に運ぶことにした。
可愛い色彩の紙袋をロッカーに入れ施錠した。
私はブラウンの紙袋を、そっと持ち上げてカギをポケットに入れ、あの〝ピンクのコインロッカー〟へ向かった。
交差点を右へ曲がると、目印の〝ポスト〟の上で猫が寝ていた。この猫のテリトリーなのだろう。誰が側に寄ってきても動こうとはしない。
自分の居場所として確立されているようだ。そこを過ぎて右へ曲がった。
慣れとは怖いもので、警戒心もないまま、ここまで来た。
荷物を無事に運ぶという事だけに、注意力を集中させていた。
前回は久しぶりの外出、初めてのバイトという事もあり、次にどこへ行き、何を運ぶのか分からず、ただ〝怪しい物〟と思っていたので、一層怖かったが、今回は逆順で回るように指示され、内容もほぼ一緒で、さらに荷物も可愛くラッピングされた物なので、何となく警戒心が薄い。むしろ早く終わらせて帰ろうとさえ思っていた。
3つ目の信号の先に、ピンクのコインロッカーがあった。
私はポケットからロッカーのカギを出し、慣れた手つきで開けた。荷物を見た私は
「え?何で……?」
そう呟いていた。そこには初日に、このロッカーから運んだ菓子折りサイズの箱と、その上にカギが置いてあった。
どう見ても、ソレはあの日見た…私が運んだ荷物だった。
再び〝怪しい〟と思った瞬間から、妄想力を駆使した〝無限ループ〟が始まった。
今までは明らかにプレゼントっぽかったのに、ここへ来て〝怪しい荷物〟になった…が、考えても仕方ない。…というより、このループは考えなければ抜け出せる。私も学習したもんだ!
これまで通り、ブラウンの紙袋にカギを入れ、ロッカーを施錠した。
菓子折りサイズの箱を抱え、カギをポケットに入れ、〝落書き〟へと向かった。
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