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21 ふみ出す決心
エレベーターで地下へ降りて、非常階段へ向かった。ここは前回同様に、とても静かだった。
カギを開け、すばやく中から荷物をカギを取り出した。
中を確認する前に、テディベアとカギを入れて、施錠した。
ぶつける事も、壊す事もなく無事に運べたことに、ちょっと安心した。
次の持ち主になる人に、大切にして貰える事だけ願った。
それから、足元に置いた茶色の紙袋を手に取った。紙袋に使われている紙は薄く、いかにも再生紙といった感じの、素っ気ない紙袋だった。
中のものは軽くて、袋の上から触った感じだと布みたいなもの…だと思う。
私はそれを手に最後の目的地、新宿駅北口コインロッカーへ向かった。
駅周辺は人があふれていた。週末はいつもこんな感じなのだろうが、やはり人混みにスッと馴染む事が出来ず、何とか人の流れにだけ合わせていた。
北口のロッカーにも数人がいたが、今の私は気にもならなかった。
ここが最後だからか、今回が二度目のせいか、慣れなのか…吹っ切れたから…と
いう理由なのか、人の気配も人目も、全く気にならなくなっていた。
朝、マスターから受け取った、北口のカギでロッカーを開け、中に〝素っ気ない茶色の紙袋〟とカギを入れて、再び施錠した。
「終わった…。えっ?もう12時半か…。」
独り言を言っていた。引きこもるようになって、無意識に独り言をいう癖がついてしまった…。
取りあえず、北口まで運び終えた事を連絡した。すると、北口のカギを持って、喫茶店へ行くように指示された。
いつもの喫茶店に着くと、面接の時にあった人が座っていた。
コーヒーを飲みながら、本を読んで待っていたようだ。おかわりをしてなければ、カップの中の残量から推測して、15分~20分…それ以前から待っていたのではないかと思った。
「こんにちは。お待たせしてしまい、すみません…。」
声を掛けながら、席にかけ寄った。
彼は本から視線を上げ、私を確認すると顔を上げて、ふわっと微笑んだ。
座っているテーブルを挟んだ向かい側へ、彼が手を差し向ける仕草をしたので、私は彼の向かい側の席へ座りながら、テーブルの上をすべらせるように、北口のロッカーのカギを渡した。
カギを受け取り、ジャケットの内ポケットから、二日分のバイト代が入った二重封筒を、テーブルに置いて
「二日間、お疲れさま。」
そう言いながら、封筒を差し出した。
私は、やり抜いた達成感で一杯で、バイト代など正直どうでも良かった。
このバイトのおかげで〝何かをやり切る事〟〝自分を見つめる事〟〝新しく進み出す事〟〝家族〟と、とにかく様々な事を考える、きっかけを貰った。
それらの時間を過ごした今、確かな自信になっていた。
これを機会に、本当に新しいスタートをふみ出す決心がついた。
「ここのランチは美味しいよ。どう⁈…」
彼に勧めて貰ったが、どうしても行きたい所があると断って、喫茶店を後にした。
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