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23 兄の苦慮
柱時計は、15時半だった。
何だかんだと一時間はデパ地下で過ごしてしまっていた。
手土産を持ち、自宅へと向かった。
兄に伝えられた約束の時間より、少し早く戻る事が出来た。
兄はキッチンから
「おかえりぃ~早かったな。」
玄関に居る私に聞こえるように、いつもより大きめの声でいった。
私は手土産を兄に渡して、洗面所で手を洗い、一緒に夕食の準備をしようと、キッチンに来たが…そこは兄のテリトリーだった。
いつも手際よく料理をしてくれているところに、私が居ると邪魔になりそうなので、その間に食卓にクロスを掛け、食器を並べた。
もう少しで約束の時間という頃に、インターホンが鳴った。
相手が誰かは分かっていたが、液晶画面で確認し、通話ボタンを押して
「開いてるよぉ。」
「おぉ~そうか!」
こんなやり取りの後、玄関ドアが開いた。
すっかり料理が出来上がって、セッティングされて、準備OKというタイミングで登場する父。早く来て手伝うという発想は、全く持ち合わせていない。
それぞれ席に着き、久しぶりに家族三人そろっての食事の前に、恒例のザックリした近況報告をしあった。
兄が腕を振るってくれた料理は、全部すっごく美味しい。
だけど、あの味を知ってしまった今は、ちょっと物足りないっていうか、アレがあったら…と、ぼんやり炊き立てご飯を眺めていた。
「ん?その顔、久しぶりに見たな!」
何だか懐かしいような、思い出して可笑しいといった表情をした兄が笑った。
「…えっ?」
私は何の事か分からず、きょとんとしていると
「お前が幼稚園の頃、よくそういう顔をして、茶碗の中のご飯と睨めっこしてたんだよ。母さんが元気だった時は、おにぎりが大好きだったのに、他界して暫くすると、そういう風に睨めっこして、おにぎりを喜ばなくなったんだ。…オレのせいだったのかなぁ…。」
「そうなの?」
「あぁ。米の研ぎ方や、水加減を変えてみたけど、ご飯が美味しいって食べてくれなくてさ…母さんの炊き方と違うか?」
私はバイトの事は伏せて、あのお弁当屋さんの話をした。
そこのご飯は、ふわっとしててモチモチで、甘みがあるご飯で、とっても懐かしくて、美味しいかったと話した。
「あぁ~それは…米だな。」
遠い目をして父がつぶやいた。
父によると、お米には沢山の品種があって、私が懐かしく感じた、モチモチした食感で甘みのあるもの。粘りが少なくてサッパリした感じのものなど、いろいろとあるらしい。
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