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25 二人の性格
こういう時間、いいなぁ…って思った時、
「次は…いつスケジュールを開けといたら良いんだ?」
父が嬉しそうに聞いて来たが、
「スケジュール調整しないと、家族で食事が出来ないって…どうなの?忙しいのは分かるけど、仕事場で寝泊まりしないで、可能な限り帰って来てください。」
…と注意。いや厳重注意された。兄なりに父の体の事を思っての発言だった。
父はアクセサリー全般のデザインをしている。
いわゆるジュエリーデザイナー。ただデザインだけでなく、クラフトマンも兼ねている為、かなり忙しいらしく、仕事場兼事務所で生活し、最近はほとんど家には帰って来ない。
仕事が忙しいだけでなく、私が引きこもってからは、家に帰り難くなってしまったのだと思う。
私から見た父は、人の痛みを我がことのように感じる人で、誰かの辛そうな姿を見ていられない人。
〝優しい〟という言葉で良いのか分からないが、感受性が豊かだからこそ、寄り添うと共倒れしてしまう人。
逆に兄は、痛い時ほど近くで寄り添い、辛い時も眼を背けずに支えてくれて、
共に歩んでくれる人。
〝我慢強い〟という言葉で良いのか分からないが、人の痛みを受け止めて、一緒に耐えられる人。
私は向けられる悪意をかわせず、耐えられず、向き合えず、逃げてしまった。
それが間違っていたとか、正しかったとかではなく、結果的に全てを放棄して、
何もせず、ただ引きこもってしまった。
そのとき父は、忙しい時期でもあったのだろうが、仕事に没頭し、ほとんど家へ帰らなくなった。
そして兄は、仕事と家事を一手に引き受けて、ずっと私の側に寄り添っていて
くれた。
私が緊急避難の為、引きこもりという方法を選んだ時、外敵から身を守る方法として、容認してくれて、心配はしていても焦らせるような言動はしなかった父。
引きこもるようになって少し経った頃に、部屋だけに閉じこもらない。食事を抜かない。最低限、自分の部屋と風呂掃除をすると約束させ、引きこもりの引け目を軽減して、家での居場所と自由を確保してくれた兄。
方法は違うけど、二人の考え方や行動に、私は救われた。
そんな事を考えているうちに、次の食事会は土曜日の昼食に決まったらしい。
嬉しそうに手帳に描き込みながら、コーヒーを飲む父に
「時間厳守ですからね!」
兄が、珍しく念押しした。そして私の方を向き、
「土曜日のランチは何がいい?あと数日で今の米が終わるから、次の食事会には
大好きなモチモチご飯が食べれるぞ。どうする?」
甘やかし上手な兄が、嬉しそうに聞いてきた。
「シスコン‼妹の10分の1くらいは、父親を大切にしろ!」
寂しそうに拗ねながら、父がボヤいた。
相変わらずな二人の会話に、ホッとした。
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