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27 約束の土曜日
片道30分ぐらいかかるから、12時までに戻れるか焦っていた。
最寄りの駅について、直ぐに電車が来たので飛び乗った。
さすが土曜日、電車の中は混雑していた。
おしゃれな恋人や家族連れもいて、平日とは違う車内の様子に、まだ慣れなくてキョロキョロしてしまう。
この時間になると陽射しもあるので、恋人たちは脱いだ薄手の上着を手に持っていたし、シルバーシートの男性も、ジャケットを膝の上に置いていた。
車内に持ち込まれたベビーカーの周りには兄妹がいて、それぞれが母親に
何か大きな声で話している。母親は兄妹の側で、人差し指を口元に持っていき、シーっとジェスチャーしながら
「ここは大勢の人が乗っている電車でしょ?おうちの中じゃないから、大きな声で話すと迷惑になっちゃうでしょ。わかったかな?」
兄妹に落ち着いた声で話していた。
その後も、何か母親が話していたが、兄妹は静かに聞いているようだった。
私はその家族の横を通り、目的の駅で下車した。
あのバイト以来、誰かの視線も人混みも、見知らぬ人との関わりも、怖いと思わなくなっていた。外を一人で歩く事なんて、出来ないような気がしていた時期もあったので、スゴイ変化だ。
改札を出て、少し歩いたところの洋菓子店へ着くと、目移りしてしまいそうなケーキが沢山並んでいた。
店員さんの手が空くまで、ショーケースの中のケーキやパイ、タルトやシューを見て楽しんでいた。
「いらっしゃいませ。お決まりでしたら、どうぞ。」
私が父の名前と、予約してある商品を受け取りに来た事を伝えると、
「ご事情は、お電話にて伺っております。少しお待ちください。」
そういうと奥からケーキの入った箱を手に戻って来て、箱がピッタリ入り、持ち手が付いた紙袋に入れて、手渡してくれた。
私は店員さんにお礼を言って、店を出ようとして振り返り、壁かけ時計を見ると、11時20分だった。
兄にケーキを受け取ったという連絡を入れ、急いで帰ると伝えた。
「そんなに急いで帰って来なくても、大丈夫だから。コケるなよ!」
クスクス笑いながら言われた…。兄にとって私は、いつまでも小学生と一緒。
ケーキの入った紙袋を大事に持ち歩き、ほぼ時間通りに家へ着いた。
…が、玄関のドアにカギが掛かっていた。
兄の真面目で几帳面な性格は、小さい頃から変わらない。
兄のおかげで、私も出掛ける時は戸締りと、カギを持ち歩く習慣がついていた。
恐らく準備は完璧に終わっているだろうが、インターフォンでカギを開けて貰う程ではない。だが、ここで紙袋を斜めにするミスは犯したくないので、慎重に置いてから、カギを開けて入った。
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