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28 違和感
「ただいまぁ。やっぱり父さんは、まだ終わらないみたいだね…。」
玄関に父の靴がなかったので、そう声を掛けながら、そこに座ってブーツを脱ぎかけて、何か違和感を感じた。…兄の声が返って来ない。
慌ててブーツを脱ぎ捨てて振り返った私は、玄関で立ち尽くした。
廊下に、大きめのデパートの紙袋が置いてあった。
「……ありえない。」
かすれる声で呟いた。
もう確認せずにはいられなかった。
そっと上から覗き込むと、やっぱりあの日の荷物が入っていた。
「…なんで……えっ?」
こんな言葉しか出てこない。
「あのバイトは、終わったし…バイト代も貰った。待って、何?…なんなの?」
私は完全に動揺し、判断力を失っていた。
ここにあるってことは…もしかして後をつけられていたってこと?
…何で…やっぱり中の物が壊れてたとか?…待って、それで家まで来たの?
え…ないない。だって、電話の人が…壊れるようなものはない…っていってたし。
まさかの爆発物…とか。動かしたら…この家ごと消える…とか。
……おいおい!そんなのアリか?って…ないでしょ。
今日は家族でランチなの!どうせなら、明日にしてよ…。
ん?…えっ?…まさか、誰も…いない…?
私は慌ててドアを押し開け、リビングに飛び込んだ。
ソファーの前のテーブルに、見慣れた荷物がまとめて置いてあった。
「ウソ…でしょ…。」
私はドアレバーを掴んだまま、へなへなと座り込んでしまった。
怪し過ぎるバイトは、ガチでヤバかったってこと?
震えの止まらない手でスマホを出し、あの携番にかけてみる。…が繋がらない。
美味しそうな匂いがするのに、耳鳴りがするほど静か過ぎるリビング。
日常ではありえない無音の空間で、落ち着いていられない。私のせいなのに、ここには私しかいない。…そんなの冷静でいられるわけない。
キッチンやテーブルには、少し前まで絶対に兄がいたと、確信が持てる形跡があった。それは飲みかけのままの、まだ温かいコーヒーカップが2つ。
兄はどこ?
兄の部屋がある2階へバタバタと駆け上がり、手当たり次第、ドアを開けた。
2階が見終わると1階でも、同じように確認し、リビングへ戻って来た。
このリビングと廊下以外は、変わった様子も、変なものもなかった。
…最後に、母の部屋の前に立った。
深呼吸をし、ふすまを開けると、部屋の中央の畳の上に、大きな箱があった。
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