一瞬でも。視界の欠片でも。

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「お帰り。今日は『彼』と目は合ったの?」  帰宅してすぐ、姉に聞かれた。 「うん! 席が2列目の真ん中だったから、目が合ったよ~! 嬉しすぎっっ!」  私は興奮気味に言った。  今日は、私が大大大ファンのバンドのライブがあり、なんと! ボーカルの彼と一瞬目が合ったのだ! 「ふーん。でもさ、目が合ったって言っても、向こうの記憶には残らない一瞬でしょ?」 「彼にとっては一瞬でも、私にとっては一生モノの一瞬なの!」  私は手をグッと握って力説した。 「……まあ、良かったね。最近インタビューで答えてたっていう髪型もおしゃれも、無駄にならなくて」 「何言ってるの? お姉ちゃん。目が合わなくても無駄じゃないから」 「は?」 「後ろの席でも隅っこの席でも、あの人の視界の欠片(ピース)に私がいるんだよ? おしゃれが無駄なワケないじゃん」 「……」 「だから、カワイイ私を視界に入れてもらえる準備をする、ライブ前日の夜もワクワクして、楽しくて、幸せなんだよ~」 「うん。もう病気だね。……ご愁傷様……」
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