聖なる夜、恋せよ青年

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 何のことはない。ハッシュタグをつけて各々がインスタグラムに投稿するだけのことである。だが陽佑は毎月末に行われる投稿会を楽しみにしていた。 「へぇ、面白いな、それで俺の手を撮るの?」  桂山は笑顔になった。本当は顔も撮りたいが、それは難しいだろう。陽佑は手を拭いて、コンセントを借り充電中のスマートフォンを取り上げた。 「男の人が料理したり花を生けたり、一般的に男らしくないことをするのって、ビジュアル的に好きなんです」  陽佑はつい嬉々として語ったが、ゲイっぽかっただろうかとふと不安になった。しかし桂山は、ちょっと変わってるなぁと笑っただけだった。 「普通に肉揉んでたらいいのか?」 「あ、はい、作業進めてください」  桂山の手が肉の袋を持って、唐揚げ粉を馴染ませるのに、スマホのカメラの焦点を合わせる。彼の手が動き、甲に筋が浮くのが色っぽくて、陽佑はシャッターを押すたびにどきどきしてしまった。 「小椋は手フェチだったりする?」  桂山の声に、ひゃっ、と勝手に声が出た。 「いや、そういう訳では……」 「何か凄く楽しそうだから」  引かれたかと陽佑は焦ったが、桂山は面白がっているようで、手タレごっこなどと言いながら、揚げ油を用意したり菜箸を持ったりする様子も撮らせてくれた。  衣のついた鶏肉が油の中に投下され始めると、高崎が帰って来た。彼は長方形の箱を、そっと冷蔵庫に入れる。 「ブッシュ・ド・ノエルだよ」  サラダの盛りつけをしている陽佑に、高崎は言った。木の形をしたケーキだということくらいは知っている。 「奏人さん、小椋はインスタのアカウントを持ってるらしい、写真を投稿してるんだって」  桂山が言うと、高崎はへぇ、と声を弾ませた。 「友だちになって、サラダもうできてるよね? 肉は暁斗さんに任せたらいいから」 「え、友だち……高崎さんとですか?」   陽佑はリビングに連れて来られて、言われるままにSNSで高崎と繋がる。揚げ物の匂いが部屋の中に満ちて来て、食欲をそそった。  高崎のアカウントは、「Kanato」名義だった。陽佑はそこに投稿された絵を見て心底驚いた。画面をスクロールして、並ぶ水彩画や鉛筆でのスケッチを順番に見る。植物や小動物、奈良か京都らしい古都の風景が、優しいタッチで描かれていた。
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