それも、賢者のおくりもの

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◇11月27日 21:00◇ 「あ、時計止まってる……」  久しぶりに外食をして帰宅し、お互い腕時計を外そうとした時、奏人が小さく言った。  奏人はソファで前屈みになり、文字盤を見つめている。それは何の変哲もないが、よく見るとローマ数字や細い針が上品な国産メーカーの腕時計である。  暁斗は奏人と個人的に会うようになり、時計をしている時はいつもそれだと気づき、質素なんだなとやや驚いた。というのは、奏人は多数のセレブを顧客に持つゲイ専デリヘルの人気スタッフだったので、客から高級時計を貢がれていてもおかしくなかったからである。 「駅前に時計屋さん入ってるよ」  暁斗は奏人に言ったが、彼は浮かない顔になった。暁斗も時計を外して、リビングのテーブルの定位置——奏人が買ってきたジュエリートレイに置く。 「どうしたの」 「うん、ショッピングモールに入ってるような店だとちゃんと見てもらえないから」  電池交換にちゃんと見るとか見ないとか、あるのだろうか。 「特殊な電池なの?」 「ううん、でも古いからもしかしたら、電池交換だけでなく分解清掃してもらわないといけないかも知れない」  暁斗は奏人の美しい横顔がやや曇り気味なのを視界に入れる。腕時計の分解清掃なんて、暁斗はしてもらったことがなかった。 「暁斗さんと出逢った頃に一度、デパートの時計売り場で頼んで復活したんだけど、もうほんとに寿命かも」  奏人は寂しそうな顔をした。思い入れのある腕時計なのだろうか。尋ねると、大学に入学した時に、伯母夫婦からプレゼントされたものだという。15年近く使っているということになる。  奏人は同性愛者であるという理由から、父方の親戚とは絶縁状態だ。しかし母の姉にあたる埼玉在住の女性とは、年賀状のやりとりを続けている。帯広の実家を飛び出してから、おそらく唯一繋がっている身内だ。アメリカ留学が決まるまで、奏人は母親ともろくに連絡を取っていなかったので、その伯母の話を聞いた時、暁斗は少なからず驚いた。 「あ、内科の近くに時計屋さんがあるな」  暁斗は思い出して、言った。駅に向かう道に、小さな時計店が1軒あった。ああいう店なら、古い時計もきちんと見てくれそうだ。 「暁斗さんの時計も古そうだよね」 「俺のは……就職した時に親父が買ってくれた」  暁斗の時計は傷だらけである。普段の手入れは教えてもらったのでたまに磨いているが、傷はどうにもならない。
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