232人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ、20年使ってるってこと?」
奏人が大きな目をさらに見開いた。
「……今ちょっと自分でもびっくりした」
「お互い物持ちがいいね」
「お互いに対してもそうありたいな」
「僕は暁斗さんが時々止まるようになってもずうっと大切にするよ」
暁斗は奏人の言葉に胸がくすぐったくなる。食事の時に飲んだ、あんな量のビールで酔うこともないだろうに、随分なリップサービスである。
「止まるってどんな感じになるの?」
「え? 一人で歩くのが難しくなったり、食事をしたかどうかを忘れたり……」
暁斗は苦笑した。そんな自分はあまり想像したくない。しかしとにかく、そんなふうになってもいいと言ってくれる奏人が愛おしくてたまらなくなったので、横から抱いてそのまま自分のほうに引き倒してやった。奏人は小さくわっ、と声を上げて、笑った。
「……でも奏人さんのことはきっと忘れないと思う……」
「ほんとに? あなた誰でしたっけとか言ったらやだよ」
奏人は暁斗の上に乗っかったまま、軽く頬にキスしてきた。
「……暁斗さんが大好き」
あれ、やっぱり酔ってるのか。暁斗は華奢な恋人の腰に腕を回し、その顔を覗きこむ。
「大丈夫? 時計が止まってショックで壊れた?」
暁斗の言葉に奏人は唇を尖らせる。
「時計のことは確かにショックだけど、何で僕が正直な気持ちを吐露したらそんな風に言うの?」
「いやまあ、基本奏人さんは疲れたり不安だったりする時に……俺に好きだって言うことが多いから」
奏人はぷっと膨れた。
「そう言う暁斗さんはベッドでデロデロにならないと、僕が好きだって言ってくれないじゃん」
暁斗は思わず、えっそうかな? と言う。面と向かい奏人に愛を伝えるのは、確かに恥ずかしいとは思うが、そんなに口にしていないのだろうか。
「ごめん、ちょっと奏人さんの気持ちに胡坐かいてたかも」
「素直でよろしい」
奏人は手を伸ばし、暁斗の頭をくしゃくしゃと撫でた。暁斗は愛しいご主人様の目を見て言う。
「……好きです」
彼は満足そうな笑顔になり、今度は唇に優しいキスをくれた。暁斗はもし自分に尻尾があれば、ぶんぶん振り回していることだろうと思った。
最初のコメントを投稿しよう!