それも、賢者のおくりもの

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◇11月29日 14:30◇ 「課長、今机に資料置きました」  会社の営業課の室内で、日高との話が終わったところに松田から声をかけられて、暁斗は何も考えずに身体をそちらに向けた。その時、左の手首に衝撃が走り、ガシャッと嫌な音がした。 「えっ課長、何処かぶつけました?」  日高が音に驚いて言った。 「大丈夫ですか?」 「いや……そこそこ痛い」  暁斗は書類棚の角に手をぶつけていた。室内での空間把握能力がやや低いので、中学生くらいから、知らない間に脚や腕に青あざができるようになった。いつものことと言えば、まあそうでもあった。  しかし今日は、痛みとは別の違和感があった。手首から何かが落ちたのである。 「あっ! 腕時計……」  すぐそばに座っていた和束が口を手で覆って、小さく叫んだ。日高も床に視線を落として、ああっ、と眉間に皺を寄せた。  暁斗の腕時計が落ちていた。しかもバンドの部分を破壊されて。暁斗もその悲惨な姿に、思わずああっ、と声を上げてしまった。松田が暁斗より先にしゃがみこみ、時計を拾ってくれたが、一部のパーツが散らばったままになった。 「これはバンド交換しかないですよ……」 「派手にぶつけましたねぇ」  部下たちから憐れみの声が上がる。松田から手渡された時計は、くすんでしまった銀色のバンドが割れて、文字盤からたらんとぶら下がっていた。松田と日高が二人して、バラけたパーツを探し拾ってくれたが、それは壊れて元の場所に戻ることのない、プラモデルの部品を連想させた。
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