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pur ti miro, pur ti godo
意識がゆっくりと覚醒する。自分のものでない温もりと匂い。薄暗がりの中、少し目を上げると、見慣れた筈なのに未だどきりとさせられる顎の輪郭が視界に入る。彼がゆっくりと呼吸する度に、首から肩のラインも、規則正しく僅かに動く。それを飽きずに眺める。ただ息をしているだけのことなのに、何か愛おしくなる。彼の存在も、彼の腕の中にいる自分までもが愛おしい。
奏人は自分の左手が動くことを確認するかのように、ゆっくりと持ち上げて、暁斗と自分を覆う布団をたくし上げた。いくら抱き合っていても、冬の足音が聞こえるこの頃の夜はひんやりとする。増してや自分たちは、一糸まとわぬ状態である。
彼の肩に触れると、温もりが胸に染みた。奏人はそっと身体を持ち上げ、そこに頬をつけ、唇をつける。つまらない存在でしかない自分を、無条件に受け入れて慈しんでくれるひと。広い背中に腕を回して、しっかりした鎖骨や男らしい喉ぼとけに唇を何度も押しつけていると、暁斗はぴくんと肩を動かして、声にならない低い音を発した。起こすつもりはなかったのだけれど。
かな、と聞こえた気がした。奏人は彼の右の耳に唇が近づくよう、身を乗り出した。はい、と耳たぶに唇の先が触れる距離で応える。すると上半身ごと抱き竦められ、彼の身体に乗っかってしまった。背中に腕が回り、完全に捕えられている。胸と胸が触れて、そこから伝わる体温が一気に全身に巡り、その感覚に奏人は陶然となる。
ああ、いつまでもあなたとこんな風に抱き合っていたい。だって僕はあなたと固く結ばれたのだから。
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