聖なる夜、恋せよ青年

14/27
前へ
/723ページ
次へ
 桂山に案内されながら、企画課の2人は部屋の中に入っていく。受付に来た営業課の社員たちは、3人の背中を見送りつつ、財布から千円札を出した。 「何か料理もお酒も沢山用意してるんだなぁ」 「会社のレク費の補助が出るんだよね? 一人1000円でいけるの?」  望月はいけるみたいですよ、とあっさり答えた。陽佑が金を受け取り名簿をチェックしていると、次々と出席者がエレベーターから降りてくる。 「ここでプレゼントを受け取ります、会費未納のかたはお支払いください」  陽佑は声をかけながら、パーティらしくなってきた会場に来客を迎え入れる。  人事課の社員がお疲れさま、と声をかけてくれた。彼は柴田という名で、入社したばかりの頃に、オリエンテーションなどで書類の書き方を丁寧に教えてもらったので、陽佑はよく覚えていた。会費を徴収しに行くと、しわの無い綺麗な札を手渡してくれたのも、印象に残った。 「ああ柴田さん、よく来てくれましたね、プレゼントはこちらで」  桂山が柴田を迎えに出てきた。桂山はまるでパーティのホストのように、一人で来た人が居づらくならないように話しかけ、話の輪に引き入れる。すごいなぁ、と陽佑は桂山の手際の良さに感心した。  高畑を含む3人の外回り中の社員が到着していなかったが、定時にパーティが開始された。陽佑たちはビールの入った紙コップを手渡され、桂山の乾杯の音頭に合わせてコップを掲げる。  お疲れさま、という声があちこちから上がり、ビールが酌み交わされた。平岡が受付はもう大丈夫だと言ってくれたので、陽佑は望月と缶ビールを持ち、先輩達や他部署からの来客に酌をしに行った。 「しっかりしてきたね、2人とも」  花谷と柴田が話していたので傍に行くと、柴田は優しい目でそう言いながら、酌をさせてくれる。花谷も、コップの中身を空けてから言った。 「パーティの準備も積極的に手伝ってくれました」 「こういう場面で動くのも勉強になりますからね」  褒められて、気分が良かった。酌を返された陽佑は、ごくごくとビールを飲む。冷え過ぎていないのが美味しかった。  お食事もどうぞ、という声をきっかけに、皆がわらわらとテーブルに集まった。立食スタイルは、新入社員を集めた歓迎会以来だった。 「へぇ、美味しいな」  寿司を頬張った望月は、感心したように言った。陽佑が取ったサンドウィッチも、なかなか美味である。  課長が美味しい会社を探したんだよ、と誰かが言う。パートナーさんの身内に教えてもらったとか言ってたかな。  桂山は顔も広いし、そこから手に入れた情報は余す所なく使う。自分にも相手にも実際的なメリットがあるように動き、相手と信頼関係を構築していく。この9ヶ月、仕事を傍で見ていて何となくわかった。彼はいつも何気なく立ち回るが、誰にでも出来ることではないだろう。  そんな桂山を支えているパートナーとは、どんな人物なのだろう。考えつつ、陽佑はいろいろな人から注がれるままにビールを飲む。今日の会費を徴収し、受付を滞りなく済ませるというミッションを果たした陽佑は、気が大きくなり始めていた。  望月が陽佑にこそっと言った。 「小椋、飲むペース気をつけろよ」 「大丈夫大丈夫」  こうして気にしてくれる望月は、いい奴だと思う。彼は割と酒が強く、何度か陽佑が泣いて迷惑をかけていた。今夜はそんなことにはならない。
/723ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加