聖なる夜、恋せよ青年

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◇予期せぬ来客◇  京都駅直結のデパ地下で買った弁当は、奏人を十二分に満足させた。奈良の女子大で年内最終講義を終えた奏人は、ひとつ仕事納めを迎えた晴れ晴れとした気分で新幹線に乗っていた。  奈良は鹿が見当たらないくらい底冷えし、京都駅に戻ってくると雪がちらついていた。しかし古都の寒さは、それだけで何やら情緒があるように思えた。  新幹線が品川に到着する。奏人が空になった弁当の包みとお茶のペットボトルを、降りたホームのゴミ箱に捨てていると、スマートフォンが鞄の中で震えた。 「今どこまで帰ってきてますか? 会社のクリパが今終わりました。新入社員が潰れてしまい、大井町に送ってから帰るつもりでいましたが、」  暁斗からのLINEはそこで一度切れていた。スマホの画面に新しい吹き出しが現れる。 「ほとんど寝ていて、この寒さで自分の部屋で凍死したら困るので、一度うちに連れて帰ります。」  あらら、と奏人は呟いた。奏人は学生時代から今まで、前後不覚になるまで飲んだことが無い。また、酔い潰れた者を介抱した経験もあまり無い。つまりバカ飲みするコミュニティに属したことが無いのだが、暁斗はこんな事態を若い頃からよく経験していて、野蛮な場所にずっと身を置いてるんだなぁと、たまに呆れる。 「今品川に着いたところです。僕のほうが早そうだから、そのつもりでいます」  奏人が返事をすると、すみません、と犬が頭を下げているスタンプが返ってきた。 「じゃあ朝ご飯は3人分かな」  奏人はマスクの中でひとりごちて、京浜東北線の乗り場に向かう。今から大森に連れて帰ってきて、終電が無くなるまでに、その新入社員が酔いを覚まし大井町に戻れるかどうか、微妙なところだ。  とにかく寝る時は、何なりと貸してやれるだろう。下着の替えが要るなら、明日は休日だから、朝に買いに行けばいい。  大森に着くと、奏人は改札を出て、駅直結のショッピングビルに入った。3人なら、パンもヨーグルトも足りなかった。  よく考えると、帰国し暁斗とあの部屋で暮らし始めてから、暁斗の家族を除けば初めてのお客様だ。できれば酔っ払っていない状態で来て欲しかった。まだ時間はそんなに遅くないので、それこそ一杯やりながら語らえたところなのに。  鞄を肩にかけ直し、食料品売り場に向かう下りエスカレーターに乗る。奏人はクリスマスの装飾に溢れた店内に、少しばかりわくわくする自分を見出していた。
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