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「僕が思うには」
奏人はコーヒーをレンジで温めていた。小椋の相手をしていて、淹れたものを飲みそびれたらしかった。
「あの子は真面目なだけじゃなくって、きっと暁斗さんに好意があるね……だからあんなに申し訳ないって言うんだよ」
暁斗ははぁ? と声を裏返す。何故そうなるのか、よくわからない。
小椋はパーティの準備を、本当に一生懸命やってくれた。開宴から、最後に花谷が締めの挨拶をするまで、滞りなく進められたのは、彼らの働きも大きいと暁斗は思っている。
「酔って上司の家になだれ込んだのが、余程恥ずかしかったんだろう」
暁斗は言ったが、奏人はにやにやしていた。
「暁斗さんはにぶちんだからね」
昨夜の湯を追い焚きして、小椋に風呂を使わせている。彼は泣きじゃくりながら、暁斗の買って来た下着とタオルを抱いて、奏人に浴室に案内されて行ったのだった。
「やっぱり昨夜、大井町で降りたら良かったのかな」
暁斗は溜め息をついた。奏人はいやいや、と応じる。
「ここで着替えさせて横になったら速攻寝たじゃん、昨夜ほんとに寒かったから、家まで送るだけだったら危険だったかもよ」
吐き気を催すようなことが無いか、少し心配だったが、暁斗と奏人が寝る用意を済ませる頃には、小椋は安らかな寝息を立てていた。エアコンを緩くつけ、彼をそのまま眠らせたのだった。
「仮に奏人さんの言う通りだとして、にぶちんの俺はどうしたらいいんだ?」
「うーん……今日はとりあえず気づいてない振りがいいんじゃないかな? ホームシック気味って言ってたよね、気持ちが落ち着くまでのんびりさせてあげようよ」
奏人が自分と同じ考えであることに、暁斗は安心する。小椋が自分のことを好きであろうがなかろうが、若い男子がクリぼっちというのは、可哀想かもしれない。
「奏人さんも大概お節介だよな」
「暁斗さんには負けるよ」
浴室の扉が開く音がした。奏人は少しコーヒーに口をつけてから、小椋が身支度を整えるのを手伝うべく、洗面室に向かった。暁斗はやかんに水を入れて、コンロの火にかけた。
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