聖なる夜、恋せよ青年

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 掃除が行き届いた浴室と洗面室で、陽佑は全身のみならず頭の中もすっきりさせて、朝食をご馳走になった。もう昼になったかと思いきやまだ10時半で、桂山が開店早々、着替えを調達してくれたことに、恐縮するしかなかった。  黒い髪の天使……桂山のパートナーは、高崎奏人と名乗った。彼は桂山より10センチほど身長が低く華奢で、容貌も相まって中性的な雰囲気の人だった。システムエンジニアでありながら、週に1日、大学で哲学を教えているという。あらためて見ると、優しい顔立ちに知性が感じられて、下っ端天使ではなく大天使のようである。  桂山と高崎の間くらいの体格である陽佑は、桂山のスウェットを借りていた。袖も裾も少し長いのだが、桂山の服を着ているという事実に、胸の中がむずむずする。それを高崎に悟られたくなくて、どんな顔をしていたらいいのか、よくわからない。  桂山も高崎もフランクに接してくれるため、居心地が良かった。陽佑が会津の実家の話をすると、会津若松って行ったことない、と高崎が言い、桂山が笑った。 「奏人さんのご先祖の出身地なのに」 「暁斗さん行ったことあるの?」 「うん、蓉子と……春に行ったら桜がきれいだったよ」  蓉子とは、桂山の別れた妻だという。陽佑は上司に離婚歴があることに驚いたが、突っ込んで尋ねたい気持ちを抑えた。  桂山は高崎に言う。 「じゃあ来年はどこかで会津若松に行こう、小椋の案内で」 「案内が要るほど広くないですよ、課長」  それは事実である。陽佑は自分の故郷がそんなに素晴らしい観光地だとは思っていないが、高崎は、東北にはちょっと不思議な場所が多いと話す。 「平泉とか会津若松って、言葉良くないけど、どうしてあんな場所にって思うんだ……攻められにくいっていうのはわかる、でも不便過ぎない?」  攻められにくいことが、何よりも大切だったのではないかと陽佑は思う。そう答えると、高崎はそうかぁ、と頷いた。 「高崎さんのおうちは会津の出なんですか? 藩士だったんですか」
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