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その話が気になっていたので、陽佑は訊いてみた。高崎は、そういうことになってて、と苦笑気味に答えた。
「僕の実家は帯広なんだけど、北海道に開拓に来た会津の下級武士の家だとか……家系図さえ見たことないし、祖父母が勝手に言ってたんじゃないかな」
高崎の微かに冷ややかな口調に、陽佑は少し驚く。自分と違って、実家や故郷が好きじゃない人かもしれないと直感した。
「そんな嘘をついても誰も得しないと思います、だから事実じゃないかと」
陽佑が言うと、桂山がなるほど、と小さく笑った。
「小椋さん面白いね、営業っぽくないなと最初思ったけど、ちょっといい感じ」
「そうだろ? うちにいないタイプなんだ、微妙に飄々系」
高崎と桂山のやり取りを見て、陽佑は顔が熱くなった。どうも褒められているように受け取れた。
「でも、取引先の人と飲みに行くのは、なるべく避けたほうがいいかな」
桂山の言葉に、嬉しさが少し萎む。陽佑は、酒に弱くて泣き上戸であることが、営業マンとして不利なのではないかと、実は気にしている。
高崎は美しい形の眉の間に薄く皺を寄せて、桂山に言った。
「取引先の人と無理にお酒飲まなくてもいいじゃん、僕らそんなの滅多に無いよ」
「いや、SEとは普通飲まないような気がする……」
「誘われることはあるよ」
「奏人さんはざるなんだから、飲みに行けばいいじゃないか」
ややちぐはぐな2人の会話に、陽佑は笑いを堪えた。それにしても、仲良しだなぁと思う。よく見ると2人の薬指には同じ指輪が光っているし、テーブルの上のジュエリートレーには、文字盤が色違いの同じ形の腕時計が並んでいた。
「気にしないで小椋さん、学生の間で20歳になるまでは飲酒しないってのが当然になったみたいに、酒で接待してべろべろになるなんて野蛮な営業も、もうすぐ廃れる筈だ」
高崎の力説に、陽佑は思わずはい、と答えた。それを見て桂山は苦笑した。
「まあ事実、酒の接待も減ってきたから……誤解の無いように言っておくけど、俺もべろべろになるような接待飲みはしたことないぞ」
桂山の気遣いを感じて、陽佑はまた浮上する。今日は本当に、心が忙しい。とんでもないクリスマスイブになったと思う。
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