聖なる夜、恋せよ青年

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「凄い……」  Kanatoのフォロワーは3万人、陽佑の300倍だった。 「あ、小椋さんの空、綺麗だね……これも素敵だな」  高崎が陽佑の投稿した写真の中で指差したのは、春の会津の山と空、そして実家の庭で草むしりをする祖母の後ろ姿だった。  陽佑は高崎が描く人物にも惹かれた。無心にどんぐりを拾う女の子、パソコンのキーボードに突っ伏している男性、そして、茶碗を持ち箸でご飯を口に運ぶ男性……桂山。  絵には高崎の短いコメントがつけられていた。「パートナーは炊きたてのご飯が好きです」。何処かほのぼのとしたそのスケッチには、1万以上のいいねがついている。  それを見て、ふっと陽佑は泣いてしまいそうになる。いつもこんな桂山の姿を見ている高崎が羨ましかった。それだけではなく、2人が強い絆で結ばれているのを感じて、ただそのことに強く気持ちが動かされた。  人が仲良くしている姿は、それだけで尊い。陽佑は昨夜、自分が泣き始めたきっかけをようやく思い出していた。遅れて会場に入って来た高畑が、人事課の柴田にいきなり抱きついて、皆から冷やかされる中、柴田も高畑を受け止めたのだ。  彼らの様子は、いつも仲の良い祖父母や兄夫婦を連想させた。そして一気に陽佑は、会津の空気が恋しくなったのだった。 「ね、何か撮ってた? 僕も1枚絵を仕上げるから、今夜お互い新作をアップしようよ」  高畑は無邪気に言う。自分の写真など、彼の絵に比べたらつまらないものだ。でもこういう計画は、純粋に楽しい。陽佑ははい、と頷いた。  桂山が声をかけてくる。 「もう揚げ物できるよ、テーブル用意して」 「了解」  陽佑は高崎とキッチンに向かう。そして思った。今日は実家以外での、最高のクリスマスイブになるだろう。
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