聖なる夜、恋せよ青年

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 それはそれで、暁斗としては心配でもある。まだまだ若くておぼこい部下が、自分の性的指向と折り合いをつけるために悩む姿は見たくない。会社の中はこれでも以前よりは教育が行き届いており、きっとゲイバレしてもそんなに嫌な思いをすることは無いだろう。しかし。 「大丈夫だよ暁斗さん、いい子だからきっといいお相手が見つかると僕は思う……写真が好きだっていうし、まあこれはちょっと偏見かもしれないけど、絵や写真や芸術を愛する人は、自身がセクシャル・マイノリティの人も多いから、趣味方面での出会いもあるんじゃないかな」 「……だといいんだがな」 「暁斗さんは僕のだから、残念だけど譲ってあげられないし」  俺は譲渡会に出されている犬じゃないぞ、と暁斗は言いそうになった。前も同じことを何処かで言いそうになったことがある気がしたが、思い出せないだろうから、考えるのをやめた。  小椋が着替えていた時に、彼のスマートフォンが数回震えていた。昨夜のことを会社の誰かが心配して、彼に連絡を取ってきたのかもしれなかった。そうであったらいいと暁斗は思う。独りの家に帰る時に、誰かが自分を気にしているとわかれば、少しは慰められるのではないかと思うからだ。 「僕は凄く楽しかったな、若い人と知り合いになれて、インスタでも繋がれたから……あの子いい写真撮るよ、暁斗さんもフォロワーになってあげてよ」  楽しそうな奏人に向かって、暁斗は頷く。酒の席を一緒にすると、こうして会社の人間の新しい一面を発見できる。飲ミニケーションという言葉は暁斗も好きではないが、こういう機会はやはり大切だと思う。 「面白いクリスマスになったなぁ、良かった良かった」 「クリスマスは明日だよ暁斗さん、今夜から明日にかけては二人で過ごそうね」  暁斗は意味もなく、言った奏人の長い指を左手の中に包んでみる。奏人は嬉しそうにくすっと笑った。
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