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「ひ、秀忠様っ、どうして泣いておられるのですか!?」
乾いた頬に、一筋の涙。
まさか泣いてしまわれるとは思わず、頓狂な声を上げてしまった。
そこでようやく秀忠様も涙を流されていたことに気が付いた様子で、すまないと慌てて拭い去り、
「お前の笛の音が、あまりにも……」
「へ、下手にございましたかっ?」
「いや、むしろ見事であった」
「でしたら、何故……?」
秀忠様は、答えては下さらなかった。
代わりに慈しむように、されど甘えるかのようにそっと抱き寄せ、
「お前のおかげで、私も覚悟が決まった」
――――ありがとう、と。
耳元に響く、芯の通ったお声。
背中に回された腕は熱く、力強くて――伝熱するままに、私も背中に手を回す。
秀忠様の肩越しに見上げた夜空の色は、先程よりも深くなっており、夜明けの時間が近付いていることを報せてくれる。
夜明け前が、一番冥い。
誰かがそんなことを言っていたなと。ぼんやり思い出しながら私は……私達は、冥闇の中へと身を委ね投じた。
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