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それからしばらく、お互い黙して月を眺めていた。
すると秀忠様から、
「……お前は、後悔していないのか?」
私に向けられる、眼差しと声――そこには後悔と自責の想いで満ち溢れていた。
後悔していない、と言えば嘘になる。
初姉様の尽力もあって、一度は止められたこの戦。きっと時間さえあれば、他にも両家同士歩み寄れる天下の道があったかもしれない。
しかし、それを無情にも許してくれないのが戦乱の世というもの。
父上も母上も、柴田の父上も、そうした時代の性質に殺され……更には私か姉上の命までも奪おうとしている。
姉上も理解している上で頑なに、天下を譲るつもりはない。そしてそれは義父上様も同じで……
もはや誰にも、どうすることも出来ない。
だから私は――――
「……いいえ。私も“徳川の女”、貴方様に嫁いだ日から覚悟は出来ております」
同時に、ふと母上の最期の言葉が脳裏に過ぎった。
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