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「もう、そんな顔をしないで下さいまし! さぁ、明日は出陣なのですからそろそろ寝なければなりませんよ」
「…………あぁ、そうだな」
それでも秀忠様の顔色には覇気がなく、曇りが拭えぬ様子であった。
どうか、そんな顔をなさらないで欲しい。
私達姉妹との対立と死別を防がんとして、義父上に何度も抗議をして下さったこと。
その尽力だけでも、私には充分過ぎるほどに嬉しかったのだから。
しかし、それでも秀忠様はご自分を責め上げ、卑下し続けられてしまうだろう。
一体どうしたら良いものなのかと、考えていたところ。
ふと思い出したことがあり、
「少々お待ちいただけますか」
そうして一度、寝室の闇へと戻って行く。
暇な時に時折出していたから、そう深い場所にはしまい込んではいないはず。
確か以前出した時は――手探りで探し出していると、すぐにコツンッと何かが指先に当たり、それを辿ってなぞるように撫でれば、肌触りの良い木肌の感触に辿り着く。
これだと思い闇の中から、そして木箱から中身を取り出す。
「お待たせしました」
取り出した物を胸に、再び縁側へと戻り、秀忠様と向き合うように腰を掛け直す。
「それは……篠笛か」
「はい。私の母より、譲り受けた物です」
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