ー純ー

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 2トントラックの荷台から、15箱の飲料を台車に乗せる。昨日の納入状況から、内山が購買担当とともに決めてきた。それに試飲してもらう新商品を一箱分。上手くいけば、このまま納品できる。事務所から貰ってきた納品書と、いつもの書類を入れたショルダーバッグを身につけて、台車を押し始めた。 『いやーー、今日は涼しいな。』  スーツの上から会社のジャンパーを羽織っていても暑くない。まあ、これは夏用のものだから分からなくもないが。  台車を押しながら久しぶりの風景を楽しむ。前回は7月の終わりで蝉の大合唱が響いていた。2か月以上たち、今は虫の声も聞こえない。どこか色が薄くなってきたような欅の葉が、サワサワと音を立てて揺れていた。  人通りが多い。授業が終わった直後なのだろう。あちこちで立ち止まったり歩いたりしながら、子どもたちがおしゃべりしていた。 『懐かしい光景……でもないか。』  俺はここの経済学部を出たが、学校には必要最低限しか行かず、単位もギリギリしか取らなかった。それよりも、バイトや彼氏と遊ぶ方が多かった。 『「J」でのバイトは良かったよな。』  あの頃付き合っていた篤志に教えられて行った店。ゲイが集うこの街唯一の店なのだそうだが、そんなに賑わっているわけでもなく、ひっそりと佇む隠れ家のような店。4年の最後、4か月間だけ働かせてもらった。  夜の仕事で時給もいいし、出会いもあった。篤志とは別れた後だったから、美人さんに誘われれば、すぐに乗ったっけ……。 『ま、哉太と俺も似たようなものか。』  俺は特定の彼氏ができれば、セフレは作らない。それが付き合っている相手への誠意だと思ってきた。哉太は違かっただけ。俺と付き合ってるという意識はあったはずだが、奴は快楽に弱い。 『同じ考えの奴なんて、誰もいないさ。』  夕べ腹が立ったのは、哉太も俺と同じ考えだと一方的に思っていたせいだ。哉太は他人、俺と同じ考えだとは限らない。そう考えれば、冷静に話し合うこともできただろうに……。そうは言っても。 『しっかし……腹立ったな。あの真っ白な頬にアザでもできていればいいのに。』  許せないものはしょうがない。「好きだから付き合って? 彼氏になって。」と言ってきたのは哉太の方だ。大きな目、白い肌、抱き心地の良い小さな身体……。俺も夢中になっていたのは認める。ま、性格はどうなんだと思わなくもなかったが。  そんな事を考えながらゆるい上り坂を歩いていると、目の前にゆっくりと歩く男女の2人連れが目に入ってきた。女は小さい。俺の肩までも身長がなさそうだ。男も小さくて華奢だ。今時の男は華奢な奴が多くなった。  黒のパーカーに黒のジーンズで、黒のワークキャップから茶色の髪をはみ出させて、颯爽と歩くその男は彼女との会話を楽しんでいるようだった。 『今は黒が流行りなのか?』  並んでゆっくりと歩くカップルが邪魔だ。どう抜かしてやろうかと考えを巡らせていると、急に男が振り返って走り出してきた。  俺の台車とぶつかる。回避のしようもなかった。台車を押さえるだけで精一杯。勝手にぶつかってきて転んだ男を見て、つい舌打ちが出る。  チッ    
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