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学食は混んでいた。夏帆ちゃんと穂花ちゃんは何故か自分と同じメニューにしたがり、一緒に鯖の塩焼きとサラダ、お味噌汁と舞茸ごはんを選んだ。
「侑ちゃんの選ぶメニューってシブいね?」
「そう? なかなかお魚って家じゃ食べないから。」
3人で座る場所を探す。すると、窓際の6人席の方からこちらを見ている人と目が合った。
『和樹!』
男子5人で座る中の1人。遠いけど間違いない、和樹がこちらを見ている。付き合ってた時にはろくに視線を合わせなかったのに……。
和樹の表情は読めなかった。微かに驚いた顔をしているような気がしたけど、ふと視線を外すと前にいる男の子に何やら話しかけたようだった。
「あ、侑ちゃんあそこ空きそうだよ?」
夏帆ちゃんの声に我に返り、指差す方を見る。入り口から遠く、和樹が座る席とは反対の方で、今まさに食べ終わって立ち上がろうとしている集団を見つけて、3人で歩いて行った。
「「「ごちそうさまでした。」」」
3人で同時に挨拶をする。結構楽しく話ができた。夏帆ちゃんと穂花ちゃんはアニメ好き。ちょうど推しているアニメの主題歌を歌っているグループが自分の一推しで、曲の話題で盛り上がった。2人も大好きと言っていて、意外と詳しかった2人と話が弾んだ。
和樹の方には背を向けて見ないようにした。さっき目が合った時に微かに感じた動揺を蘇らせたくない。だから、いつ和樹が学食を出たのかは分からなかった。自分たちがトレーを持って立ち上がった時には、さっき和樹が座っていた席には違うグループが着いていた。
「自分、購買行くけどいい?」
この後の授業は2人と一緒じゃない。ルーズリーフの紙を買っておきたいから、ここでお別れ。そんな気持ちで2人に声をかける。
「うん! 付いてく。」
えっ? 人の買い物に付いてきて楽しいわけ? そんな感情がなかったわけじゃないけど、今までの経験で分かってる。女の子たちって、親しくなりたいと思うと結構一緒にいたがるんだ。
夏帆ちゃんや穂花ちゃんの好意は嬉しい。でも、会話の端々に「カッコいい。」という言葉を乗せてくる。それが少し、いや大分居心地が悪い。どこがカッコいいのか言ってくれれば納得できるのかもなんだけど。
2人は自分の後を付いてきて、穂花ちゃんは自分と同じB罫のルーズリーフを買った。夏帆ちゃんは、購買には可愛いのが何もないと嘆きながら、何も買わなかった。
「ね、夏帆ちゃんと穂花ちゃんは次の授業どこ?」
3人一緒に外へ出る。次はF棟だから、自分はここから一番近いんだけど2人は? 歩きながら話しかけた。
「私はこれで終わり。」
「私はB棟で……。」
2人の話を遮るように、購買の建物の傍から声をかけてきた男がいた。
「侑。」
胸の奥で心臓がドキン、と大きな音を立てる。聞き覚えのある声に顔を向けると、案の定、そこには和樹が立っていた。
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