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「おい坊主、周りをよく見て歩け。」
両手と両膝を地面につけて動かない様子の男に声をかける。痛みを堪えているのか身動きをしない。紺のロングスカートを身につけた女が何か呼びかけながら、男に近づいた。「ゆう」と呼びかけたようだった。
女に腕を抱えられて立ち上がった男は、茶色い髪を半分下ろして女みたいな顔をしていた。哉太よりは少し背が高いか? しかし線が細い。色白だが、唇の色が薄い。痛みを堪えているのか、少し歪んだ表情は俺好み。いや……。
「チッ。女に感けているからこんな事になるんだ。」
こいつはヘテロ。俺とは次元の違う世界に住んでいる。可愛らしいヒラヒラ服のお嬢さんに気を取られるあまり、周りが見えてなかったんだろ。
俺の言葉が気に入らなかったらしい。男が睨んできた。その表情は唆られる。気の強い奴は大好きだ。そいつを屈服させて喘がせ、腰を振る……想像しそうになって頭を振った。
それでも自分が悪かったと思ったらしい。男は帽子を被ったままの頭を下げて、女に腕を支えられながら俺の脇をすり抜けていった。少しだけ振り返る。足を少しだけ引き摺っているが、まあ大丈夫だろう。
何せ、向こうが勝手にぶつかってきた案件だ。それに可愛くて優しそうな彼女に手当てしてもらえれば本望だろう? 俺は気にしないことに決めて、後半分ほどになった緩い上り坂に台車を転がし始めた。
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