ー純ー

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『俺は一体ここで何をしてるんだ?』  大学のカフェでブレンドコーヒーを飲みながら、学食へ向かう学生たちを見つめる。結構な人数が向かってきたはずなのに、侑の姿は無かった。侑なら、一発で見分ける自信がある。  元カレの姿は確認できた。アイツはいつも男数名と連んでいる。今日は3人で歩いてた。ここ何日か続けているこの監視を、頭のどこかで批判している自分がいた。 『侑は侑だ。あの元カレっつう奴にも前にここで警告したし、もう大丈夫だろ。』  今日は月曜日で納品が少なかったからのんびりしてたが、明日は今日の倍の納品をしなくてはならない。いい加減見張りをやめて、自分の仕事に精を出すときかもしれん。 『よし、明日からは通常に戻す。』  大学を最初に、そして他を回ってラーメン屋で休憩。いつの間にかコーヒーが空になっていた。行き交う学生も少なくなった。ずっと外を見て誰かの姿を探していた自分に嫌気がさし、仕事に戻ろうと席を立った。 「ごめんなさいね。どうしても在庫が足りなくて……。」 「いえ、大丈夫です。今日は時間に余裕があったので。」  西村さんが、はち切れそうなエプロンを曲げて謝ってきた。せっかくルートを元に戻して朝一で納品を終え、ちょうどラーメンを食べていたところに追加注文。しかも、午後からの会議に間に合うようにお茶を2箱。注文忘れらしい。慌てて会社へと戻り、1番安いお茶を持って大学へ来た。 『何だ、3時か。』  会議が始まるのは3時かららしい。じゃあ、もう少しゆっくりラーメンを啜っていても良かったか。そんなことを考えながら、購買の裏で煙草を吹かす。まだ1時を過ぎたところだ。  ガヤガヤと学生たちの声が賑やかだ。カフェから出てくる連中がこちらを見て何か言ってる。ここは禁煙だとか何とかだろう。知ったことじゃない。 『侑はまた今日も弁当か?』  確か以前F棟で食べると言ってたっけ。煙草の吸い殻を携帯灰皿に押し入れ、建物の横を覗いた。ここからならF棟の入り口が見えるか? 『! アイツ! 何やってんだ?』  全身に緊張が走る。アイツ、侑の元カレが建物の陰に隠れるようにしてスマホを弄っていた。スマホを見ている振りをしながらも、表を歩く学生たちの群れに視線を投げているのか明らかだった。 『何だかアイツは気に入らねぇ。』  コソコソと何を企んでいるんだか……。また裏手に戻って無意識に煙草に火をつける。そして自分も同じようなものかと苦笑した。ここ最近の自分は、変な行動をしている自覚がある。 『行くか。』  仕事の続き。今日は余裕で回ることができる。3時過ぎには会社へと戻れるだろう。時間休を取って早めに上がってもいいな。まだ吸い始めたばかりの煙草を持ち、最後にするつもりでもう一度奴を見に行った。 『!』  奴が歩いていく。その視線の先には……。 『侑!』  それだけ確認すると、咄嗟に反対側に駆け出していた。人混みに紛れて、何が起こるか確認したい。      
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