好きなんだ ー純ー

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    好きなんだ ー純ー

 鍵を開ける音がする。ようやくだ。ようやく俺の思いを伝えられる。ドアが開くのを待たずに自分で取っ手を引く。昨日会ったばかりだというのに、初めて見るような気がする。侑の全身が輝いているように見えた。 「好きだ。」  何も考えずに侑を腕の中に閉じ込める。この香り。俺を惹きつける唯一の香りだ。男でも女でも関係ない。もう離したくない。俺の、俺のモノになって?  夕べ一晩考えた。振られたことで気が立っていると思った。家に帰ってからもビールを煽り、そのままふて寝してしまった。  今朝起きた時にも、真っ先に浮かんだのは侑の顔。俺を拒んで睨みつけた、あの顔。 『忘れらんねぇ。』  頭を抱えたところでどうしようもない。今日は月に2回ある平日の休み。大学へ行って、そしてまた侑の姿を見て、考えて。 「って、ストーカーかよ。」  自分らしくない。でも、昨日の今日だ。また侑の元カレか迫ってきたら……。 『二度あることは三度ある、っていうしな。』  冷静に考えれば、そんなにすぐに元カレが接近してくるはずがないだろうことが分かる。でも、自分の思考が変であることに気づかなかった。そして、身支度を整えて学校へと足を運んだ。 「侑。俺と付き合ってくれない?」  俺の腕の中で身動きしない侑に不安が持ち上がる。まさか、失神してないだろうな? 買い物袋を下げたまま、侑の肩に手をやって顔を覗き込む。侑は……侑は静かに涙を流していた。 「侑? どうした。」  自分の気持ちを押しつけることより、侑の様子が気になった。人形のように動かない。 「上がるぞ?」  勝手に靴を脱いで上がり込み、侑の肩を支えてリビングへと移動する。侑は良いとも悪いとも言わなかった。前にカレーを食べたソファへ座らせて、隣に座り込む。 「侑? 今日は学校へは行かなかったのか?」  俺の言葉に頷く様子を見てホッとする。涙はまだ出ていた。周りを見渡して、キッチンとの境にあるカウンターにティッシュボックスを見つけて持ってきた。 「侑? 何に泣いてるのか聞かせて?」  額に手を当てても熱がある様子はない。俺の手を拒むわけでもない。ティッシュで顔を拭う侑に語りかけると小さな声が聞こえた。 「分からないの。」  分からないってなんだ? ん? 何で泣いてるのかが分からないって? 「侑、もしかしてずっと泣いてたのか?」  俺の言葉にちょっとだけ躊躇しながらも微かに頷いた。次の言葉を探す。 「昼は食べたか?」  何気なく聞いた言葉に微かに首を振った侑の姿に慌てた。えっ? 食べてないのか? 「朝は?」  朝も食べてないらしい。とにかく話の前に体だ。侑が倒れちまう。俺は即座に決心すると、侑の肩に手をやって無理矢理そこに横たえた。 「侑、まずは何か腹に入れてからだ。ちょっと横になってろ。」  買い物袋の食材を思い浮かべる。飯は冷凍してあるか? すぐにできるもの、すぐにできるもの……。そこから俺は、何をどう調理するかに集中しながらキッチンへと向かった。  
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