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冷凍されたメシがある事を確認して、鶏モモを使って雑炊を作る。この家には封の開けてない白だしがあることは分かっていた。人参を千切りにして微塵切りにしたネギと溶き卵を加えれば、すぐに完成だ。
「ほら、まずは食べろ。」
俺は大学の学食で飯を食ってきた。カフェにも2回入って、最後には飲みたくもないチョコレートドリンクを頼む始末。ずっと侑の姿を探したが見つけることが出来ずに、休みだと判断した。
目の前のテーブルに置いた丼に蓮華を乗せて侑に促す。侑は起き上がってはいたが、丼を手に取ろうとはしなかった。
「どうした侑。食べさせて欲しいのか?」
隣に座って丼と蓮華をもち、一掬いして息を吹きかける。熱々だ。少しだけ入れた生姜がいい香りを出してる。誰が食べても美味いと思うぞ?
「ほら。」
そこで、ようやくこちらを見た侑が泣き笑いの表情を見せた。
「凄くいい香り。ありがと。自分で食べるね?」
俺の手から丼と蓮華を取って、一口食べて咀嚼する。
「美味しい。……純って料理が上手。」
「当たり前だろ? 親元を離れて10年近く1人で暮らしてんだ。お前よりは上手くなくちゃ。」
一口、また一口と蓮華を含む口元を眺める。温かいものを体に入れ始めて、頬がほんのりとピンク色に染まってきた。耳も……真っ赤だ。
「純、そんなに見ないでくれる? ちゃんと食べるから。……テレビつけて。」
うおっ? そんなに見ていたか? ちょっとだけ焦りながら、テレビのリモコンを探す。テレビ台の傍に、エアコンのリモコンとともにちょこんと並べられていた。
テレビを見たいわけじゃない。隣の侑に意識を集中させながら、チャンネルを変えていた。平日のこの時間、何の番組がやってるやら興味もねぇ。アニメや時代劇の再放送、情報番組、園芸番組、少しだけ早く始まった夕方のニュース。ニュースで止めて流し始める。
「ここでいい?」
隣で頷く侑に安心しながら、どこかの繁華街で起こった火事のニュースをぼんやりと眺めて時間を潰していた。
「ごちそうさまでした。美味しかった。置いてくるね?」
侑が空になった器を見せて席を立った。安堵感が生まれる。良かった。全部食べられたってことは、体は大丈夫だってことだろ?
「はい、お茶どうぞ。」
少しだけはにかみながら手渡されたコップ。喉が渇いていた俺はお茶も歓迎したが、侑のその表情に釘付けになった。何だこれ? 初めて見る表情……。
「侑、好きだ……好きなんだ。」
お茶をテーブルに置き、そのまま侑の身体を引き寄せた。倒れ込むようにして俺の上に身体を寄せた侑を抱きしめる。
「好きだ、侑。俺のこと好きになって?」
祈るように、暗示にかけるように……それから俺はただ「好きだ」という言葉を呟き続けた。
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