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男が好きなんでしょ? 〜侑〜
純が用意してくれた雑炊を食べて、全身に血が巡っていくように温かくなるのを感じた。何かお礼をしなくちゃ。1番大きなコップを手に取り考える。
『好きだって……言ってくれた。』
本音は嬉しい。こうして心配して来てくれて、欲しい言葉が貰えて。
『欲しい言葉?』
そう、自分はいつの間にか純を好きになってた。だから「好きだ。」と言われたことが嬉しいんだ。「付き合って?」とも言われたような気もする。
『でも……。』
純はゲイ。自分は男じゃない。付き合ったところで上手くいくわけがない。お茶をコップに注ぐ。自分のお気に入りのコップにも注いでカウンターへと置く。
『期待しちゃダメだ。』
ペットボトルを冷蔵庫にしまって純のグラスを持って歩き出す。こちらを向いた純……。カッコイイ。気がつかなかった。何故か直視することができずに、胸元を見るようにしてコップを差し出した。
「はい、お茶どうぞ。」
お茶を手渡した途端に腕を引き寄せられた。思わず純の太腿の上にダイブする。気がつくと、純にギュッと抱きしめられていた。
「侑、好きだ……好きなんだ。」
頭の上から純の声が聞こえる。自分の身体がカッと火照るのが分かった。純の身体も温かい。洗濯したばかりなのか、服から柔軟剤の爽やかな香りが漂っていた。
「好きだ、侑。俺のこと好きになって?」
純の声から真剣な様子がわかる。「もう好きになってる。」本当はそう言いたい。でも何かが邪魔をしてるんだ。何が……?
「ごめん。自分は男じゃないんだ。」
「好きだ。」と呟き続ける純の言葉を遮るように、自然と言葉が出てきた。純の腕の力が緩み、顔を上げる。もう泣かない。しっかり伝えなくちゃ。
「分かってるって。」
純の眉がハの字になる。困った時の純の顔。こんな顔ですらカッコイイなんてずるい。
「純は男が好きなんでしょ? 私は……自分はうまくいくような気がしない。」
しっかり伝えることができた。純の眉が元に戻って何か考えている。その隙に、床に座り直した。体育座り。両腕で膝を抱え込む。
「侑は、侑は俺が嫌いか?」
やがて静かに紡がれた言葉に抑えきれずに涙がまた溢れてきた。
「自分は……。」
好きになっちゃった。でもその言葉を言う勇気がない。もし、純と付き合うようになったら? 純が好きになりそうな女の子や男の子にまで気をつかっちゃう自分が出てくるような気がして、怖いの……。
「侑?」
静かにソファから降りた純に両手で顔を包まれ、持ち上げられた。真剣な目が覗き込む。二重の目。そんなに大きくないけど、優しく瞬くのを知ってる。今、正にそんな目をしていた。
「俺は男としか付き合ったことがない。それは前に話したよな?」
純の言葉に頷く。
「俺も驚いた。そして分かった。侑が男でも女でも関係ない。侑が侑だから好きになったんだ。」
その言葉を聞いた途端に、大量の涙が頬を伝って流れていくのが分かった。
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