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「でも、でも……。」
何を言ったらいいのかわからない。でも純の顔はしっかりと見た。純は今までに見たことがないほど、真剣な顔をしていた。
「でも、何? 俺が嫌だったらここでキッパリ言ってくれ。出直すから。でも諦めない。……そう決めたんだ。」
頬に当てられた純の手の親指が、流れる涙を拭う。純の手も温かい。この手にもう顔を預けてしまいたい。
「私……自分に自信がない。他の子たちに勝てる気がしない。男でもないし、可愛い女の子でもないの。」
「何。付き合う前からヤキモチってか?」
純の顔がニヤニヤとし始める。えっ? 自分、変なこと言った? えっ? ヤキモチ? 出てた?
「可愛い侑。俺はジーンズを履いてようが、スカートを履いていようが気にしない。その中身の侑が好きなんだ。特に目。そして香り。侑を抱きしめた時に感じる香りが忘れらんない。」
気がつくと、床に押し倒されていた。首の下に腕を入れた純の顔が迫ってくる。純の額がコツンと自分につけられる。こんなに近くで見ると……パッチリ二重瞼が羨ましいんだけど。
「で? 返事は?」
……もうダメ。自分に嘘がつけない。純はもう自分の気持ちが分かってる、そう感じて目を閉じた。
「……好き。いつの間にか好きになってた。」
目尻から涙が耳の方に流れたと思った途端、唇が塞がれた。純の口の髭が当たる。学校で、みんなに見られた時と同じ……。
そう思った途端に、今までに誰にも感じたことのない疼きが、体の底から迫り上がってくるのを感じた。
「侑? 俺と付き合ってくれる?」
「うん。うん、こちらこ。」
こちらこそよろしくお願いします。という言葉はまた口の奥に消えていった。純が瞼に、頬にキスを落としてくる。
「……良かった。また振られたら、どうしようかと内心思ってたんだ。ま、明日も来たけどな。」
体が引き寄せられ、自分の体が純に乗り上げた。慌てて床に手をつき体を起こす。
「侑? も一回言って? そして侑からキスして?」
顔が熱くなるのが分かる。純、純ってどうしてこんな変なこと言ってくるの?
「なっ? そんなに睨みつけてないで。俺、その顔大好きなんだけど。」
悪戯が成功したようにニヤケ面にますます顔が熱くなる。この顎ひげを1本むしり取ってやりたい。でも……。
「純……好き。」
ここは素直に言わなくちゃ。自分の気持ちをキチンと伝えて、純が思っている以上に好きなことを伝えたい。唇を寄せていった途端に、また体が反転させられた。
「もう無理。侑……愛してる。」
純からされた口づけは、今まで何度かあったキスの中で、1番強烈なものだった。
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