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遭遇1 〜侑〜
毎日同じ。同じような服装、同じような帽子、そして相変わらず退屈な講義。後期になって授業のコマ数はまた少なくなったけど、初めまして、と自分に話しかけてくる女は少ない。自分が人見知りなんじゃない。他の女がコッチの様子を伺っている。
『バカじゃない?』
何人か固まっていてこっちをチラチラ見ているぐらいなら、話しかけてくればいい。とはいっても自分から話しかける気にはなれない。独りでいる子は気になるけど、集団で連む気持ちにはなれない。昔からそう。
『侑は女らしくないよな? スカートじゃなくてこっちの方が似合うんじゃね?』
高校の時の友だちの声が聞こえてくる。片足を上げてスラックスを見せながら笑顔で話したヤツ。そ、アイツは友だち。好きだったけど、あの一言で諦めた。友だち以上にはなれなかった。
『スカートは嫌いじゃないんだよね。でもあまり履きたくないっていうだけで。』
今日もジーンズ。ブラックジーンズが色褪せてグレーになってる。もうそろそろ、新しいのが欲しいところ。このジーンズは休日用にして……。
「ゆうっ! 侑ったら!」
後ろから走ってくる大きな足音と声で、親友が近づいてきたのが分かる。足を止めて振り返ると、案の定、杏の姿。
「杏、大汗。」
はぁはぁ言いながら肩を揺らしている親友に、ポケットからティッシュを渡す。杏はティッシュを受け取ると、1枚摘んで汗を拭きだした。
紺のロングスカートにかわいいフェミンンスタイルのカーディガン。このスカートは自分も似たようなものを持ってる。少し前に流行った裾の丈が前後で違うやつ。ヒラヒラ踊るシルエットがいいと思って、自分に合うものを探し歩いた。
「ありがと! これ返す?」
「バカっ。要らないし。」
汗が滲んだティッシュを返そうとした杏に苦笑い。2人揃って歩き出す。杏は自分より10㎝は背が低いから羨ましい。自分のように丈を合わせようと、歩き回って服を探す事が少ない。大抵のデザインは着こなすことができる。
「そのスカートいいよね。」
「えっ! これーー? 探すの苦労したんだから!」
「ホント?」
「そう! 侑みたいにスタイル良くないしさ。ウエスト合わせると丈が長すぎるし。」
杏は少しふっくらしてる。でも、このぐらいのふわふわ感がウケるようで、彼氏に事欠かない。でもいつも違う大学の子と付き合っている。いつ出会いがあるのか、自分にはさっぱり。でもあまり彼氏の話はしない。それが大学ではちょうどいい。
「ね、今、何の本読んでる?」
「え? 趣味で?」
「決まってんじゃん。大学で読む本って言ったら似たようなものだし。」
2人とも文学部。専攻が微妙に違うから興味はあるけど、それよりも趣味。本や音楽の好みが似ていて、杏といるといつも話が盛り上がる。
それから今夢中になっている本の情報交換をしながら、2人一緒の次の講義のあるF棟へと歩いて行った。
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