運命

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運命

「今日は、ヘイスとジェイが出所することになった」 朝の朝会、いつものように出所者が発表される。 呼ばれた者は、朝会終了後、先生たちが集まる部屋に移動する。 帰ってくる彼らは、けして幸せそうな笑顔ではなく、目を赤く腫れさせて泣いている。 お迎えがきて、みんなは外に出る。 珍しく見る馬車を、仲間たちががやがやと見る。 ヘイストジェイが馬車に乗る前に、マルク先生が二人を抱きしめる。 「ヘイス、ジェイ、君たちの幸せを願っているよ」 先生は二人にそう言った。 マルク先生は、出所者たちが旅立っていくたびに、みんなにそう言っている。 そして出所者達は、涙ながらにうなずく。 僕はそれをただ遠目に見るだけ。 「本当に嫌になるよ。 15歳のしかも”誕生日”にお迎えがくるなんて」 木に寄っかかりながら、木のブランコに乗っているルマに言う。 「しょうがないよ。私たちは、下人に生まれた以上その運命なんだから」 ルマは元気がなく、たたブランコを足をつけながらゆっくりこぐだけ。 「はぁ…逃げたいなぁ」 僕は、ポツリという。本心か冗談かわからないけど。 正直、僕達には親というものがいない。 昔からの言い伝えだと、僕達は「人間の憎しみ」から生まれた存在なのらしい。 けれどマルク先生は言った。 『君たちは、愛されるために生まれてきた。愛を知るために生まれてきた。 だから私が、君たちを愛すよ』と。 マルク先生は人間で、いつか死が訪れる。 もし死んでしまったら、僕達は一体誰に愛してもらえるんだろうか。 「運命を変えられないなら、僕達は運命に従うしかないのか」 なぜ、僕達には自由がない。 草達は自然に自由に伸び、木だって、自由に伸びている。 花は自由に色を染め、鳥は自由に飛ぶ。 それはまるで僕達への当てつけか? 「ルマは、自分の運命が嫌じゃないのか?」 不機嫌ながらに、ルマの顔を見る。 ルマは不満ながらも、優しく微笑んでいた。 「私は、信じてるから。きっと良い人がいるって」 …何だよそれ。 人間なんか人間なんか、どうせ僕達下人のことなんかただの家事やりとしか思ってないよ、どうせ…。 「…ダージーは、信じないの?人間たちを」 「人間なんか、見たことないよ。 マルク先生は僕達とは変わらないって言うけど、見たことがない僕らはどうしようもない」 ルマはブランコからおりて近づいてきた。 「ダージーは、マルク先生を信じないの?」 不思議そうな顔でルマが言う。 「…信じて、もし違ったらどうするんだよ。 マルク先生みたいに、みんながみんないい人間じゃないかもしれないじゃないか」 「でも、信じれば叶うかも」 「信じれば叶うことが本当なら、 僕は下人として生まれてないよ!」 ルマを突き飛ばす。ただの八つ当たりだ。 けど僕はルマを背に走り出す。逃げ出すんだ僕は。 かっこ悪い、意気地なし。 けれど足は、ルマの元へ戻ろうとしない。 そして僕は戻らないことに後悔した。 ルマが、行方不明になった。
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