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「ねぇ!ダージー!どうしたの、急に走り出して」 息を荒げながらルマが言った。 「あぁ、その…」 人間の元へ行かされる年齢に僕達はなっている、なんて言えない。 「…見て!」 急に大きな声を出したルマを見ると、ルマは向こうに指を指していた。 そこには、大きく広がり咲く彼岸花(ひがんばな)が、風に吹かれドミノ崩しのように揺れていた。 「キレ〜!」 キラキラした目でルマは眺めるが、その先に僕達は行くことができない。 なぜなら… 「はぁ、こんなきれいな彼岸花の前に、私たちを出入り禁止するロープがあるなんて…」 しょんぼりしながらルマが言う。 そう、この下人収容所は僕達下人が逃げないよう、ロープを張っている。 図太い綱のロープ。 「しょうがないよ。それに知ってるだろ、ここから先には 人間たちが戦いのために使った地雷があるかもしれないんだ」 昔、人間たちが争い道具として使っていた地雷。 ここは昔戦場で、僕達が怪我をしないためにもロープが張ってある。 「そうだけどさ。私、一度でもいいから、いっぱいに咲く彼岸花にころがってみたい」 優しく、悲しさが少しにじみ出た顔で、ルマは言った。 出来ることなら僕も、こんなところから抜け出して、 自由を、幸せをつかみたい。 けれど下人として生まれた以上、そんな自由はきかない。 「ルマ、もし人間として生まれて、今大人になってたら、ルマは何になりたかった」 風が吹く。ルマの髪が揺れる。 「私、看護師さんになりたかったな。 誰かの命をつなぎ続けれるような」 彼岸花を寂しそうに見ながら、ルマはそう答えた。 けれどもその願いは、神様に願っても七夕に願っても、 命をかけて願っても、叶わない。 逃げたい、逃げれない。 変わりたい、変われない。 生きたい、生きれない…。
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