11人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
夢
「ねぇ!ダージー!どうしたの、急に走り出して」
息を荒げながらルマが言った。
「あぁ、その…」
人間の元へ行かされる年齢に僕達はなっている、なんて言えない。
「…見て!」
急に大きな声を出したルマを見ると、ルマは向こうに指を指していた。
そこには、大きく広がり咲く彼岸花が、風に吹かれドミノ崩しのように揺れていた。
「キレ〜!」
キラキラした目でルマは眺めるが、その先に僕達は行くことができない。
なぜなら…
「はぁ、こんなきれいな彼岸花の前に、私たちを出入り禁止するロープがあるなんて…」
しょんぼりしながらルマが言う。
そう、この下人収容所は僕達下人が逃げないよう、ロープを張っている。
図太い綱のロープ。
「しょうがないよ。それに知ってるだろ、ここから先には
人間たちが戦いのために使った地雷があるかもしれないんだ」
昔、人間たちが争い道具として使っていた地雷。
ここは昔戦場で、僕達が怪我をしないためにもロープが張ってある。
「そうだけどさ。私、一度でもいいから、いっぱいに咲く彼岸花にころがってみたい」
優しく、悲しさが少しにじみ出た顔で、ルマは言った。
出来ることなら僕も、こんなところから抜け出して、
自由を、幸せをつかみたい。
けれど下人として生まれた以上、そんな自由はきかない。
「ルマ、もし人間として生まれて、今大人になってたら、ルマは何になりたかった」
風が吹く。ルマの髪が揺れる。
「私、看護師さんになりたかったな。
誰かの命をつなぎ続けれるような」
彼岸花を寂しそうに見ながら、ルマはそう答えた。
けれどもその願いは、神様に願っても七夕に願っても、
命をかけて願っても、叶わない。
逃げたい、逃げれない。
変わりたい、変われない。
生きたい、生きれない…。
最初のコメントを投稿しよう!